KeitaSakai

クレイジー・リッチ!のKeitaSakaiのレビュー・感想・評価

クレイジー・リッチ!(2018年製作の映画)
3.0
ジョン・チュウという男は多少問題のある監督です。フィルモグラフィを遡ればわかりますが、関わった作品の多くは続編であり、総じて残念な出来です。
まず長編監督デビュー作の『ステップ・アップ2: ザ・ストリート』とその続編である『ステップ・アップ3D』は、チャニング・テイタムとジェナ・ディーワンというカリスマを欠いており、とても前作のファンを満足させられる出来とは言い難いです。
続く『G.I.ジョー バック2リベンジ』は、前作を怪作たらしめていた珍妙な魅力を漂白したため、ドウェイン・ジョンソンという現在世界最高のアクションスターを擁しながら、イマイチ地味さの拭えない凡作になってしまいました。
更に『グランド・イリュージョン 見破られたトリック』は、前作で畳まれたはずの風呂敷を無理に開いた結果、登場人物の設定が矛盾をきたし、話が明後日の方向に向かいました。特にモーガン・フリーマンの混乱っぷりは凄まじいものがあります。
また劇映画の合間にはジャスティン・ビーバーのコンサート映画やドキュメンタリーを撮っており、全く信用できない男だということを露呈しています。

そんなジョン・チュウという男の元々そんなに高くもなかった評判を、地の底まで叩き落とした作品が、80年代アニメ“Jem”を現代風にリメイクした『ジェム&ザ・ホログラムス』です。
およそプロが作ったとは思えないほど狂ったこの作品は、オリジナル版の要であったSF要素を削ぎ落とし、ユーチューバーが成り上がるという、もはやオリジナル版とはまるで関係ないメロドラマへと変貌した結果、メジャー映画としてワースト興行記録を更新しました。
また映画に参加できる権利と称し、オリジナル版のファンや著名人に“Jem”というアニメへの愛を語る動画を募り、それを応募者のあずかり知らぬところで、劇中のバンドを褒めるという名目に変更して使用するなど、内容だけでなく製作体制にも問題のある映画でした。
つまり僕は、ジョン・チュウという監督をニュートラルな視点で見ることがもうできないわけです。僕にとって、この男は残念な映画を作る人物に他ならないわけです。

正直なところ、本作の監督がジョン・チュウと聞いたときは、何かの冗談ではないかと思いました。ほとんどのキャストがアジア系のブロックバスターという、言うなればアジア人版『ブラックパンサー』とも言うべき、歴史的に見ても重要作の監督を、フィルモグラフィが腐ったトマトだらけの人物に任せられるでしょうか。
結果としては、これまでの監督作と変わらず問題の多い作品に仕上がっています。
例えば映像の平たさ。シンガポールという美しい国を舞台にしながら、その地形を生かした撮影を全くしていません。セカンドユニットが撮影したショットは確かに美しいですが、露骨に話と無関係な空撮を連発されても、邪魔なだけです。アクション映画やダンス映画を撮ってきたとは思えないほど手抜きです。
またロマンティックコメディに不可欠なクライマックスのチェイスシーンが欠落しているせいか、2時間以上のランタイムにも関わらず、エンディングが駆け足に見えてしまうという問題もあります。

ただしチュウの監督作としては、最高傑作であることは間違いありません。アドリブでのびのびとギャグを披露するオークワフィナやケン・チョンを見る限り、確実に演出力が向上しており、明らかに余裕を持って監督しているようです。またオークワフィナの用意したギャグの数々も、『オーシャンズ8』のような面白風の台詞回しではなく、しっかりとギャグとして機能しています。
結論としては、これまでのジョン・チュウの監督作と同様問題のある作品です。しかしこれまでのジョン・チュウの監督作と違って残念ではありません。
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