K

万引き家族のKのレビュー・感想・評価

万引き家族(2018年製作の映画)
4.0
『タクシードライバー』『ジョーカー』はアメリカに蔓延る闇に蝕まれた下級国民の叫びが詰まった物語。

そして、日本社会の海の底を這うこの家族もまたジョーカーのようだった。不安と不満と格差から産み出された痛みを負った人間。本作の彼らはどちらかと言うと善行に身を堕としたタクシードライバーのトラビスに近い。悪行を犯したどうしようもなく不器用で、どこまでも救われなかった善人。

重たいテーマだったけれど何よりも救われたのは、ドライに映る低温な闇の中にも確かに温かみの灯る家族としての彼らの姿に胸が締め付けられた。生活の貧しさと心の貧しさは必ずしも比例するわけではない。

みんな何かから逃げたいから己の一部を捨て、でも空っぽの一人ぼっちでは生きてはいけないからそこに何かを拾って必死に現世と繋ぎ止めているんだと思う。他人だったり、体温だったり、お金だったり。
この家族の繋がりはきっと共通した脆さだと思った。血は繋がっていないけれど、痛みを分け合って繋がっていた。

“普通”や“一般”という名の「異常な正常者」そんな“まともな”人々の「正気の沙汰」に痛めつけられた結果がこれである。努力しても這い上がれない、日が当たらない人間は正常者の影で生きながら死んでいくのだ。
K