アベ二ティKazumaAbe

エンジェル、見えない恋人のアベ二ティKazumaAbeのレビュー・感想・評価

エンジェル、見えない恋人(2016年製作の映画)
3.9
瑞々しく、美しい青春譚。語り口が割とライトで、端々に見受けられるリアリティラインの緩さに寓話っぽさを感じたりする。しかしどこかに現実の重さがしっかりとあって気が抜けない。

官能というのは、原義として「追いかけても易々とたどり着けない領域の事を追う感情、気持ち」を指すというのを何かで読んだことがあった。本作はそれを一番に連想させる内容である。盲目の少女は目の前にいる彼の姿を想像し想い焦がれていく。人の目には見えない彼も、手術で彼女の双眸に光が与えられたとしても自身の存在をそこに認めてもらえないことを知っている。ここで人物らの感情の錯綜が、観客に不思議な気持ちを齎していく。

少年の存在を認め、愛したのは彼の母親と少女だけ。だが、そもそも愛情というのは視認できるものでもない。
あくまで一個人が特別な感情を向けた相手に対する行動の中にそっと滲むものであって、対象の“姿”が見えているか否か=対象がどんな姿をしているかは問題では無い…というのが作品の主題なのだろう。それを伝えるため優しく、柔らかく描き出された80分間が美しい。

盲目の少女が見抜いていた少年の心、満たされたいと思いながら孤独な日々を過ごしていたピュアな透明人間のラブストーリー。今時珍しいまでに「二人は幸せに暮らしました」という所に収束する物語ではあるけど、それ以上のフレッシュな見どころにドキドキさせられた一作だった。