りんごあめり

生きてるだけで、愛。のりんごあめりのレビュー・感想・評価

生きてるだけで、愛。(2018年製作の映画)
4.3
(2018年11月鑑賞)
今週末はいくつかの注目作があって、それらを観に行くつもりだったけど、直前でこの『生きているだけで、愛』の原作が本谷有希子の同名小説だと知って、最優先して観ることに。

「え、あれ映像化できたの?」

当時原作を読んだ時、その衝撃的な内容と主人公・寧子を演じる(演じられる)女優さんを全く想像できなかったので、映像化は無理なんじゃないかと思っていて…。

だけど、主演の趣里ちゃんは体当たりの演技で見事に寧子になりきっている。趣里ちゃんはナタリーのインタビューで映画の魅力は「脚本のエネルギー」と語っていたけど、元々の原作、そして趣里ちゃん自身が放つエネルギーが尋常じゃない!作家性の強い作品の中で生きるキャラクターを演じられる俳優さんは限られ、菅田将暉なんかはそのタイプだなと思うのだけど、趣里ちゃんもそれができる数少ない若手俳優だと証明している。まさに“女版・菅田将暉”の存在だなと思った。

その菅田将暉が津奈木という人物を演じるのもすごく意外だったけど、蓋を開けてみればこれがまたハマり役。同じく並々ならぬエネルギーを秘める俳優さんだけど、今回はそれを封じ込め、人の“陰”の部分を多く持つ津奈木という人物をこちらも見事に演じている。原作では詳細が掴めなかった津奈木をしっかり描くことでこの映画は成立している。

一言で言ってしまえば“ヤバイやつ”寧子と、その寧子と3年も同棲している津奈木の恋人関係が、常識的な感覚で観ていた序盤は許せない。仲里依紗演じる安堂さんがまたいいキャラクターで面白いのだけど、彼女の言うことの方が正論だと思った。

しかし、物語が進んでいくとこの寧子に共感してしまう自分もいる。趣里ちゃんがシネマカフェ のインタビューで寧子のことを「他人とは思えない」と語るように、多くの人が寧子のような感情を胸に抱えているのでは?と思う。そんな感情を押し殺して生きている人多数のなかで、感情をいろんな方法で発散する寧子が少し羨ましかったりする。

人格も人間関係も全て破綻していて、改めてこの作品のエキセントリックさは際立つのだけれど、終盤に見せる2人の新しい形の“愛”が美しすぎてたまらない。これは完全なラブストーリーだとわかる。寧子の全身全霊で津奈木にぶつける言葉や、津奈木の優しい包容に思わず涙しそうになった。

センスや才能としか言いようがない美しいラストシーン。監督さんはこれが長編デビュー作というから、今後も注目していきたい。
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