ぴんじょん

カツベン!のぴんじょんのレビュー・感想・評価

カツベン!(2019年製作の映画)
3.0
コメディ版『ニュー・シネマ…』ですが。
映画草創期、サイレント映画の活動弁士を主人公にしたドタバタ活劇です。

活弁という映画文化は日本独自のものだそうで、起源を訪ねると、歌舞伎や浄瑠璃の語りに求められ、明治期のオッペケペ節や『金色夜叉』などの演歌(現在の演歌とはちょっとちがう、浪曲のようなものでしょうか)につながるようです。

「語り」の文化が映画と合流したもののようです。

さて、『ファンシー・ダンス』や『シコふんじゃった』などで、その世界を丹念に描く周防監督ですし、なんといっても日本映画草創期を舞台としたコメディというのですから、それなりに期待してしまいます。

役者も竹中直人をはじめ、周防ファミリーの芸達者が適材適所に配され、安心の演技。
物語も、コメディのセオリーにのっとった安定の展開。

にもかかわらず、面白くない。
何箇所かクスッとさせられる場面はあったものの、全体を通して大爆笑というわけにはいかないのです。

ドタバタ喜劇であるにもかかわらず、あまりにテンポがわるくスピード感がないのは致命的でしょう。

特に、自転車や人力車を使った追っかけのシーンが、あんなにもたついてしまっては、見ていられません。

冒頭の少年時代のエピソードも冗長である上に必然性が感じられません。
なぜ子供たちは執拗に映画撮影を邪魔するのか、なぜ巡査をからかうのか。

また、主人公を執拗に追う刑事が、なぜこんなにも活動写真が好きなのか、その説明も不足しています。

ラストの細切れのフィルムをつなぐシーンはあきらかに『ニュー・シネマ・パラダイス』であり、見どころの一つでもあるのですが、どうにも盛り上がりません。
それこそ、『ニュー・シネマ・パラダイス』のように、往年の名画をつなぐことができれば良かったのに、と思ってしまいました。
そうでないなら、番外編として、サイレントの映画を一本作るくらいの映画愛が欲しいところでした。
『グラインドハウス』から『マチェーテ』が生まれた様に。


さて、この映画の一番の敗因は、活動弁士の位置づけがあいまいだったことにあるのではないでしょうか。

活弁という日本独自の話芸と映画との融合を積極的に認めようというのか、いずれトーキーにとってかわられてしまういっときのあだ花と位置付けているのか。

物語のかなめ的な役回しの往年の名活動弁士、今は落ちぶれて飲んだくれになっている「山岡秋聲」に「映画はそれだけで完成されているものだ。」と語らせてしまうあたりは、この作品が活弁をよけいなもの、いずれ消えていくべきものと位置付けているかのように見えてしまうのですが、それにしては、活弁を郷愁の念を込めて描いているし…。

そのうえ、ラストにはサイレント映画の傑作『雄呂血』が流されています。

『雄呂血』の映像を見ると、映画が動く絵であること、つまりサイレントであろうとも、いや、サイレントであるからこそ、動く絵として完成されているのだという事がよく分かります。
…とするとやはり活動弁士はそれだけで完成されている「映画」にとっては余計なものだったと捉えているのか…。
ますますわからなくなってきます。

『ニュー・シネマ・パラダイス』を目指すよりは『雨に唄えば』を目指したほうがこの題材にはあっていたのかもしれません。

かつてあんなにも楽しい映画を作ってきてくれた周防監督だけに残念でたまりませんでした。

『ファンシー・ダンス』は今見てもあんなに面白いのになぁ…。

2019/12/16 21:13
1,335-89
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