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嵐電のtoyocaのレビュー・感想・評価

嵐電(2019年製作の映画)
3.8
友人に誘われ、思いがけず観た作品。『嵐電』、それはわたしの生活の一部だったと言っても過言ではないくらい、20代半ばまでは生活に密着した乗り物だった。塾へ行くのも嵐電、学校へ行くのも嵐電、仕事へ行くのも嵐電、遊びに出かける為にも、もちろん嵐電。

主役は3組のカップルと、嵐電。昔、夫婦で嵐電という名の江ノ電を見に来た作家男性、太秦撮影所に来た東京の俳優と仕出し屋の女の子、学校をサボる鉄オタ男子と修学旅行生の写真オタ女子。そして、「乗ると別れる」と言われるキツネとタヌキの電車。

人生を狂わす謎の電車の行き先は「どこまででも」。嵐電とは、京都市の西の端っこ、『北野白梅町』と『四条大宮』、『嵐山』をY字で結ぶ、短くて特には「どこにも行けない」ローカル線。地元の人は、どこにも行けない事を知っている。御室仁和寺駅近くに住む仕出し屋の女の子も、常盤駅の隣の嵯峨野高校に通う男の子も。対する、東京から来た俳優や、修学旅行生の女の子、作家の男性(妻は京都出身)は行き先を意識はしていないだろう。キツネとタヌキに「どこまででも行ける」と言われたら、そのまま化かされて、騙されてしまうのだろう。地元の人のリアルと、観光客のファンタジーは、今も観光客で溢れる京都では中々混ざることがない。

それぞれの主人公たちは、自分たちなりの答えを見つけようと努力する。特に、仕出し屋の女の子は家の事情や過去にこだわるあまり、嵐電の狭い線路からどこにも行けないでいたが、自らの殻をやぶり、向こう側へ行った人と再び出会うことが出来た。もしかしたら、再び謎の電車に乗れば、二人揃って「どこまででも」いけるのかもしれない。意志の強い顔が印象的だった。

さて。8ミリビデオで電車を撮る鉄オタの男の子。「好きなものを撮ってたのに、撮ったものを好きになってしまっている気がする」という言葉が、とっても素敵で心に強く残った。

ぜひ京都観光の際は、「どこにも行けない」嵐電を体感してみていただきたい。
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