このレビューはネタバレを含みます
色弱を持つ自分が、色を明度で感受し、また区別していることを知ったのは、ごく最近のことだった。モノクロ映像は色を黒と白の明度で表す。私にとってそれは色の認識過程の本質であり、他の色を省いた白と黒の濃淡は、この世を最も美しく繊細に反映しているように思えた。
前編モノクロで描かれる『ライトハウス』において、白と黒のコントラストは、血や汚れなど物理的な醜悪さと、殺人や裏切りなど観念的な醜悪さを、一律明度で統制し、マイルドに包み込んでいた。前編を通したコントラストの頂点に屹立し、最も高い明度を保つのは、イデアの如く象徴的な「灯台」であり、その万華鏡のような光源の魅力は、モノクロによって加速されていた。
正方形に近い1.19:1のアスペクト比に、神の陰を見たのは私だけだろうか。灯台の光源にたどり着いた若者に対して開いた扉、その囲いのアスペクト比は、1.19:1の如く小窓であった。我々観客が見守った若者の行動は、その場にいなかった老爺に全て筒抜けであり、また老爺を殺し人間は若者ひとりだったその孤島で、理を破った若者に「何者」かが天誅を下した。1.19:1の囲いに神の超自然的な視野を連想する。
灯台を見張るべく孤島に停留する、ワーカーの若者と、その雇用主の老爺。重労働の末に約束された賃金は老爺の裏切りにより消え、また孤島脱出の退路は嵐により潰える。食糧と水が底をついた絶望の孤島で、酒、人魚の夢、過去のトラウマに溺れた若者は、老爺を殺め、象徴的な理想「灯台」に到達する。万華鏡のように眩い光を放つ灯台の光源にたどり着いた若者は、「全て」に触れるが、人間の肉体はそれに耐えきれず意識を失う。禁忌を犯した若者は、かつてゼウスの理を破り火を人類に授けたプロメテウスの如く、岩に磔となり海鳥に内臓を食い潰される運命を辿る。