Ark

ライトハウスのArkのレビュー・感想・評価

ライトハウス(2019年製作の映画)
3.7
2023-95
1890年代、2人の男が灯台守としてニューイングランドの孤島にやって来る。ベテラン灯台守の老人と、新人の若者。2人は反りが合わず衝突を繰り返す。そんな2人のもとに嵐がやってくる。少しづつ崩れていく世界……狂ってしまったのは誰なのか?


35mmのモノクロネガフィルムで撮影された作品。小さいモノクロの画面が、孤島に閉じ込められている窮屈な状況と、不気味さを助長させる。

以下ネタバレあり↓


色んな解釈ができる映画。
SFホラーではない。そもそもホラーではない。サスペンス・スリラーといった感じ。古いホラー映画のようなBGMや効果音が使われているので、そういう雰囲気がすごいある。

ベテランの老人ウェイクと新人の若者ウィンズロー。ウェイクはウィンズローに「灯室には入るな。俺が灯りを守る」と強く言い、ウィンズローには肉体労働をさせ、偉そうな物言いでこき使う。ウェイクは毎晩灯室にいて、日中は休んでいる。
人魚の置物、「海鳥を殺すのは不吉」という発言、「灯室に入るな」という発言。

前職で木こりをしていた時に上司を殺し罪の意識に苛まれ続けていたウィンズローは、最初から狂っていたのかもしれない。逆にウェイクが、人魚や灯室や海鳥の話で徐々に人を狂わせ、前の相棒もそうやって殺したのかもしれない。なんなら、初めから2人ともが狂っていたのかもしれない。

ウェイクのモチーフとなっているのはギリシャ神話に登場する「海の老人」と呼ばれる海神プロテウス。ポセイドンの従者であるプロテウスは予言の力を持ち、過去・現在・未来を見通す博識な神であると同時に様々な生き物に姿を変えるシェイプシフターでもある……らしい。

ウェイクを惑わせる女性器や性欲の象徴として登場する人魚は、ギリシャ神話で「セイレーン」という名の恐ろしい海の怪物として登場するらしい。歌声で船乗りを混乱させて船を難破させる力を持つセイレーンは、本作でも混乱や錯乱の象徴と考えられる。
初日から絶叫する人魚セイレーンの夢を見ていたウィンズローは、最初から狂っていたのかもしれない、という可能性がここから見えてくる。

灯台自体が勃起した男性器の象徴として描かれており、人魚は女性器や性欲の象徴して描かれている。ウィンズローが灯台を白いペンキで塗っていく姿を上から見下ろしているウェイク、このシーンは要はフェラを表しているらしく、最後に落ちて顔に白いペンキが付いているのが顔射を表しているらしい。途中、灯室で自慰行為をしているウェイクを目撃したときに、何とは言わないが上から液体が滴ってくるシーンもあるし、自慰行為や人魚とのセックスシーンなど、性欲を直接的に描くシーンが非常に多い。

そしてウェイクが禁止したことを、ことごとく破っていくウィンズロー。海鳥を殺し、自身の秘密を話し、灯室に入る……。禁忌を破った先にあるのは罰であるという、とてもシンプルかつ宗教的なメッセージが込められている。

すごく難解で不気味な作品だが、実際には神話から引用されている描写が多いようなので、解説を見たら案外シンプルな話であることが分かる。

ウィレム・デフォーの傲慢で支配欲に溢れた老人の演技が、絶妙に気持ち悪くて不気味。そしてロバート・パティンソンの、ミステリアスな雰囲気を纏い何かを抑えているような若者の演技が、これまた不穏な空気を漂わせていて不気味。
モノクロなので光と影しか見えず、闇はまさに闇。人の心に宿り心を支配する精神の闇と、孤島の物理的な闇が描かれていて、非常に気持ちの悪く不気味としか言えない不穏な映画となっている。

誰が先に、いつから狂っているのかが分からないので観終わってからも謎が残る。惹き込まれる映画だと思う。ただし、万人受けはしない。

ウィンズローが斧で肩をやられたとき、ずっと血が流れ続けてたのが生々しくて良かった。細かいところまでちゃんとするところが好感をもてる。
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