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騙し絵の牙のHALのレビュー・感想・評価

騙し絵の牙(2021年製作の映画)
4.7
吉田大八は天才だと『美しい星』以来のもう何度目かの再確認。というか、エンターテイメントの化身だと思う。これまでの吉田大八映画を連想させつつ、様々な映画の記憶すら想起させてくる気持ちよさ。

全作見ているわけではないのだが、これまでの吉田大八作品で描かれてきた「様々な人が属しているある社会で、それを揺るがす出来事が(得てして一つの建物、ビルディングで)起こり、屋上でそれが爆発する」という物語構造で最高のエンターテイメントを演じ尽くしている。薄暗い資料室は同監督の『紙の月』の金庫室かはたまた『悪魔のいけにえ』の地下室か、その後の書類を床に並べて整理するシーンはスピルバーグの『ペンタゴン・ペーパーズ』を思い出したし、勢いは止まらずにヒッチコックを思わせる飛行機との対決まで!大泉洋の神出鬼没っぷりの気持ち良さ(初登場からの突然のタクシーバック!)に対して、松岡茉優の直線的な走りっぷり。エンタメの快楽を味わい尽くした気分だった。

とにかく面白かった!と一点に昇華する映画は冷静になるとその計算され尽くした映画の恐ろしさに震えたくなるような、一粒で何度も美味しい凄さがある。「編集者」は得てして作家の作品の外側も内側にも鉛筆を入れて作品を作り変えてしまうことがあるが、吉田大八の映画と日本文学の幸福な?関係もそこに重なっていくような気がする。健全な、それでいて完璧な面白さ。
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