朝田

ナイフ・プラス・ハートの朝田のレビュー・感想・評価

ナイフ・プラス・ハート(2018年製作の映画)
3.6
これはブッ飛ばされた。未だに何を見せられたのか理解しかねるが、とりあえず記憶に不気味に焼き付く映画体験だった。アルジェントとデ・パルマとファスビンダーとグリーナウェイを合体させたような毒々しいカオスが展開される。同性愛ポルノ映画業界の裏側を描く「ブギーナイツ」的な作品なのかと思いきや、スラッシャームービーという異形のプロット。それをジャーロ的なマナーに基づいたサイケデリックな色彩の映像とM83によるノイジーなシンセのスコアと共に語り、ハイテンションに迫ってくる。それ以外にも高速で人物の回りを360度駆け回るカメラワークだったり、スプリット画面だったり、執拗なフラッシュバックだったり演出がとにかく「アングスト」並みに異常。この手の映像のカラーリングやら技巧に凝った作品というのは例えばレフンやノエの作品がそうであるように、「技巧に凝っていない」部分が極端に退屈な事がある。要するに何気ない、ただ人物が歩いていたり会話したりするシーンになると一気にトーンダウンする事がある。しかし今作は画面におけるカラーリングが徹底されているため何気ないシーンでも常に目が楽しい。その上、人物が会話しているシーンでいきなりスコールが発生し、やたら叙情的なスコアが流されたりと一つ一つの演出自体がエキセントリックなため、予測不能な楽しさが持続する。そうした演出もキテレツさを狙ったものというより、監督自身のジャンル映画に対する愛から生まれているという感じがして嫌味がない。エンドロールを二回やる、といった一見コケ脅し的なやり口も映画の撮影現場という舞台ときちんと合致しているのも感心させられた。とにかく異常だが映画に対する誠実さが見えてくるところが良い。とりあえず全然理解できた感じはしないのでもう一回見たい。
朝田

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