トッシマー

皇帝ペンギン ただいまのトッシマーのレビュー・感想・評価

皇帝ペンギン ただいま(2017年製作の映画)
3.9
この映画は、最初から最後まで、ただ淡々と皇帝ペンギンの成長を描いた映画です。たまに挟まれる(これもまた淡々とした)ナレーションを除けば、言葉は何もありません。ただただ、ペンギン達の行動と、荒涼とした風景を淡々と映しています。

しかし驚いたのは、ペンギンにしろ風景にしろ、言葉を使わずとも、雄弁に語りかけてきます。

子ペンギンが大人のまねをして失敗し、カモメにつつかれて泣き(鳴き?)、ちょっかいをかけてくる、自分より遙かに小さなペンギンをあしらう姿は、まるで感情豊かなやんちゃ坊主。好奇心旺盛な姿は、言葉で語るより深く心に染み込みます。

一方、氷に長く触れすぎたせいで死んでしまった卵が、吹雪の中散乱しているシーンもあります。中には、もうすぐ生まれそうだったのでしょうか、ひび割れて中身が見える卵もあります。氷の割れ目に落ちた、泳げない子ペンギンの羽毛が、しぼったゾウキンのようにビショビショになってしまう痛々しいシーンもあります。去る親の背中、天を仰いで鳴く子供、どちらも哀しいものです。

この映画には、心を語るための言葉も、人間のような表情もありません。あるのはただ、淡々と映し出される野生だけです。たったそれだけですが、僕は感情を動かさざる負えませんでした。
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