アベベチゴベナ

まく子のアベベチゴベナのレビュー・感想・評価

まく子(2019年製作の映画)
5.0
すごく良かったです。
評価が低調なのも分かるんですが、かなり余白の多い映画なので、嫌いな人ほど思い直してみたり、原作を読んだりして味わってほしいなと思います。

私は原作の西加奈子さんのファンなので、読んだ状態で映画を観ました。原作は主人公の男の子の心情がつぶさに描かれているので、主人公の葛藤や成長、絶望や感動が分かりやすいかと思います。実際に起こっている出来事が小さなことでも、主人公の眼というフィルターを通すと感動することはしばしばあります。それが小説の強みだと思います。

その点、小説の映像化では、原作を映画のフォーマットに変える必要があると思ってて、やや過剰にしたり、思い切って削ったり、180度変えてみたり、そこは監督の手腕かな、と思います。
その点では、今回のコズエ(=まく子)こと新音さんの身体性は素晴らしいと思います。彼女の長い手足と異物感が突飛な設定を納得させていました。とても良かったです。逆に主人公の男の子、山崎光くんはフツーの子っぽさがよく出ていて、特に走り方とか衣装とかすごく良かったと思います。
脇を固める大人も子どもも、概ね良かったと思います。草なぎ剛がでてくるシーンはとても良く、クライマックス以上に沁みる良いシーンでした。

ストーリーはほとんど原作通りなので、そこに対する驚きはなかったのですが、改めてとても良くできた素晴らしい話だなと思います。
私の話ですが、私はランドセルが好きな子どもでした。軽くて丈夫で沢山入るし、強いカバンと思ってました、何よりちょっと青みががっていて他の黒一色の子より優越感もありました。しかし、6年生になったとき、「ランドセルが恥ずかしい」という空気があり(クラスの成長が早い子がランドセルを辞めたことが始まりだった)、気付いた時には母親にリュックが欲しいと言っていたような、あの、あの空気感を思い出して、すごく感情移入して読んでいました。また、小さい頃から宇宙の話が好きだけど、すごく怖くて、地球の寿命とか、太陽が膨張するとか、そういう話が貞子やエクソシストよりも怖かったので、怖いもの見たさで触れていたのを思い出しました。自分と物語の距離が近く感じられ、大切な小説の1つになったような気がします。映画もこのポイントは抑えられて満足しました。

ただ、大切な話だからこそ、別ルートのまく子を見たい私もいて、思い切って改変してほしい気がしてしまいました。序盤の砂絵のアニメーション、ドノが一瞬写るところがすごく良かったので、ああいったシーンが沢山見られたら良かったなと思います。特に、クライマックスのあのシーンでは、結婚式の思い出PVみたいな感じで…。もうちょっとサイケデリックな、中島哲也監督みたいな凄いのが見たかった気がします。予算とかあるんでしょうけどね…。


一番気になったのは、全体的に風強くて。撒いた砂やら落ち葉やらがすぐに落ちちゃってて。私が小説で想像していたのは、羽毛を撒いたときのような、フワッ〜〜と落ちていく映像でした。やっぱり映画って難しいですね。
読んでからの映画がオススメです。観た人は原作を読んでみてください。

映画でいうと「A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー」みたいな話なので、ピンとくる人がいたら是非。