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凪待ちのtokoのネタバレレビュー・内容・結末

凪待ち(2019年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

・依存症と戦う主人公の映画は数多くあるけれど、私が見た中では、これほど現実味があって苦しい葛藤を描いた作品は無いなと思います。自分が1番駄目だって分かってる、だけど手を出してしまうって、あの苦しみを目の当たりにして私は溜息をつく事しか出来ませんでした。

・不条理な現実と鬼畜な展開に吐きそうになりながらも最後の最後に郁男が家族と居場所を見つけることが出来て、本当に良かった。あの幸福はもしかしたら一瞬の出来事で郁男はまた逃げてしまったかもしれないけど、それでもあの3人で歩くあのシーンの美しさ尊さに勝る物って無いなと思います。

・香取くんの演じる、郁男が予想以上でした。元々SMAP時代のバラエティを見てても影のような部分が滲み出てる感じはあったけど、彼のそういう危うさや虚さが郁男そのもののような気がしてしまうほど、物凄い実在感でした。

・「インサイドヘッド」を観て以来、何かを失った時に泣けない主人公が何処で緊張が解けて「泣ける」のか=何処で心を開いて安心出来る“自分の居場所“を見つけるのかって所に着目しながらよく映画を観るのですが「凪待ち」では、主人公がそれほどまでに心を許した相手が……って鬼畜にも程があるだろという展開で、まさに白石監督的展開だった…笑 リリーさんは、もう「凶悪」のトラウマからもう最初から怖いなー怖いなーと思いながら観ていたので(私だけ?)映画を観終わってから検索して見つけたポスターのキャッチコピーにあった「誰が殺したのか?何故殺したのか?」ってのは、全く重要じゃないというか、この映画の本質とは全く別物な気がします。…だからキャッチコピーなんて必要ないと思うんですよね。受け取り方の幅を狭めてしまってる気がする。

・素晴らしい作品でしたけど、難点を挙げるとすれば、音楽がどうにも私には映像とミスマッチなように思えて流れるたびに感情の邪魔になってノイズにしか感じられなかったのが残念でした。きっと趣味の問題ですけど、私にはまるで合わなかった。

・あらすじも何も見ずに、コロナで暇だしこういう精神的に元気な時にしか白石和彌監督の映画は観れないぞ、と思って観た「凪待ち」でしたが、3/11の震災を思い出していたこのタイミングでこの映画を観られた事は何か特別な感じがしました。エンドロールで映る、海に沈むオモチャや冷蔵庫、アップライトピアノを見てまた沢山の家族の人生に思いを馳せました。今もまだ沢山の思い出が海に沈んでるんですよね。震災で家族を失った全ての人が今、少しでも笑えていますように。
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