ゆーきまさ

ドクター・スリープのゆーきまさのレビュー・感想・評価

ドクター・スリープ(2019年製作の映画)
3.9
ホラーで終わらない「フェミニズム」物語


キューブリックがキングの原作を大胆アレンジして、「近代化とともに暴力が封じられた社会の根に潜む凶暴性」という『時計じかけのオレンジ』から訴えているテーマを描いた『シャイニング』から40年。

見ててニヤリとするくらい設定、ミザンセーヌ(セット)しかり、アングルまで『シャイニング』を意識していていた。

本作のこの「『シャイニング』意識」は単に歴史的傑作である前作に敬意を示すだけではない、と分かったのは終盤である。


『シャイニング』でジャック・ニコルソン扮するジャックが妻ウェンディを追い回し、本作でダニーがローズ・ザ・ハットと対決するあの階段のシーン。
アングルまで「意識」が感じられ、前作と本作で全く同じショットに見えてしまうこのシーンだが、似て非なるもの、対立する概念がここに見て取れる。

それは、獲物に迫っていく者の”性”である。

ジャックからローズ・ザ・ハット。
男性から女性。

ここにこの作品の一つの主題が見て取れる。

「男が、か弱い女性を追い詰める」という典型的なホラーのストーリーテーリングに対して、この映画が示したのは、「女だって男を追い詰める役に回ってもいいじゃん」という女性の強さなのである。
ここがこの映画のすごいところなのである。
というのも、「典型的なホラー」の例として、この作品が挙げたのは、何を隠そう、歴史的傑作であり、前作である『シャイニング』なのだ。

このテーマがあるから、最後、死んだダニーがアブラという「少女」に「能力を周りに話して、その能力を使うんだ」と語り、その通り少女が動き出すという結末に至るのである。この「誰にもいえなかった自分の能力を発揮しても良いんだよ」というテーマは、広い意味で女性の社会的活躍の応援歌と言えるだろう。

だから、ローズ・ザ・ハットがダニーを追い詰めるとき、ローズが消火用斧で狙ったのは、股間=男性の象徴なのである。

(他に。ローズがダニーの生気を吸うシーンが暗示するものは、セックスであり、そこにもあるフェミニズム的記号が隠されているのだが、書き示すに困る考察なので是非とも見返して自分で考えてほしい)

能力の善悪をフェミニズムと絡めた点、またその2つの軸から正しい、ポリティカルにコレクトなフェミニズムを提示した点に本作の凄さがある。

この点がキングらしい、もっと言えば『キャリー』らしいと思う部分で、見事に前作を用いて物語を現代で構築できていると思う。

そんな安直なホラーに収まらない「フェミニズム」的物語が本作。


p.s.ジャック・ニコルソンそろそろ復帰してほしいなぁ。