あずき最中

海獣の子供のあずき最中のレビュー・感想・評価

海獣の子供(2018年製作の映画)
3.9
原作未読。
真っ暗な館内で視界いっぱいのスクリーンで観るのがオススメ。
底の知れない海に潜り込んでいくような感覚に陥いって、シアター内が静まり返っていたのも印象的。
美しいだけじゃなく、畏敬も抱かされてしまう映像たちに魅了された。

展開について語るのはヤボな作品なので、思ったことをつらつら書こうと思う。

①琉花について
学校や家庭に不和を抱えている主人公・琉花。やられたらやり返してしまう気の強さがある反面、どこかで自分の存在を責めているような女の子。

ケガをさせた相手に謝るか悩んだり、「だれかに見つけて欲しかった」など、弱さがちらちら見えるけど、決定的なのはクライマックスの「私なんか......」という言葉。
このシーンで、いかにこの子が生きることに迷っていたのかを気づかされた。

海くんと空くんがいなくなった世界に残され、いつか生き物は死んでしまうと理解したうえで、それでも「私なんかが生きる意味はあるのか」と涙して悩む。

王道のストーリーなら、すぐに「頑張って生きよう」となってもおかしくないけど、最後の最後まで命のあり方に悩んでいる姿と、それでも生きていかなければいけない現実が、観客自身にも重なる場面だった。

あと冒頭では水族館の「GUEST」パスを首からかけていて、その後「祭り」のゲストになるのが地味に伏線じみていて好き。原作1巻をみる限り、たぶん映画オリジナルの描写な気がする。

②空くん
登場するやいなや「君は本当につまらないな」ときつい言葉を突き立ててくる空くん。
彼は自分のことを「リハーサル」だととらえているように感じる。海くんが「祭りで死を迎えるとき」の参考になれば、という気持ちで生きているような 。
空くんと海くんが実の兄弟なのかは微妙だけれど、えてして兄(あるいは姉)は、下の兄弟のお手本だったり、リハーサル的な立ち位置になりやすい。
それを肯定的にとらえられる人は少ないと思うけど、空くんは「弟のリハーサルであること」を人生のミッションにしているようだった。
生物が生きる価値には、「子孫を残す」ということが重視されがちだが、自分の人生が何のためにあるのかを考え、知識や経験なりをつないでいくこともまた重要なことであって、愛を感じる行為だと思った。

③海くん
全体的につかみどころがないので、語るのが難しい......。
海くんの役割は、祭りのゲストである琉花に命の真相を教える、みたいなところなんだろう。
ただ、この死生観は「命はかけがえのないもの、大切なもの」とも違っている。
むしろ「ひとつの命は大きな流れ、かたまりのほんの一部でしかない」といった感じ。
終盤の祭りシーンは、生きている人間に自分の存在が塵のように感じてしまうような、絶望感も突きつけてくる。
でも、海くんがいたことで琉花には変化が起こるわけで、やっぱりひとつひとつの命がある理由はなにかしらあるんだと思わされる。
琉花は空くんを「海の幽霊みたい」と称したけれど、私的には海くんの方が「海の幽霊」、ただよう命の化身という気がした。

④光るものと隕石
作中の「隕石」(あるいは「人魂」)はなんだかものすごいアイテムすぎて、死と生、どちらをもたらすものなのかは分からなかった。
ただ、高温の星が燃え尽きるときの「超新星爆発」につながるものだろうとは思う。星は爆発とともに輝きを放って生を終えるが、残った塵はまた宇宙や新しい星の一部になる。
この作品の主題に関わるアイテムではあるはず......。
この世界だと、この隕石を体内に宿すことで祭りのゲストになれる、という感じなのだろうか......(空くん&海くんしかり、特定の人が飲み込むと消滅に至るのかもしれないけど)。

⑤主題歌「海の幽霊」
英題に死者の魂をイメージさせるGhostではなく、意識や思いをイメージさせる「Spirit」を複数形で用いて、Spirits of the Seaとつけているのが秀逸。
大切なことは言葉や目に見える形では残らないけれど、先人の思いや行動は少しずつ蓄積されて、集まって、いろいろなところに漂っている。
それは呪いではなくて、生きていることを祝福してくれるものであるはずだ。

劇中では怒濤の展開に自分の思考や気持ちが追い付かない、うまく息ができずに溺れていく感覚に陥いり、この曲のダイナミックなサビでも、海だか宇宙だかに放り出される気持ちになる。
でも、クライマックスの「風薫る砂浜でまた会いましょう」という詩で恐れが消えてやさしさに包まれる。
本編への理解も深まり、タイアップとしてふさわしい楽曲だと思う。

⑥個人的な感想
予告で出る「海で起きることのほとんどは、誰にも気づかれない」や、ダークマターの話もそうだけど、いかに人間のが世界のごく一部でしかないことを感じて、頭がぐらぐらとして、酔いそうになった(私がカナヅチであることも要因だろうか)。
でも宇宙史的にみれば、生き物全般の原料はおんなじ。その間でうまれた進化や多様性、差異を人間同士でも異なる種同士でも認めあえるようになっていきたいと思わされる映画だった。

また原作を読んでいろいろ考えたいな......。
あずき最中

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