歪み真珠

ROMA/ローマの歪み真珠のレビュー・感想・評価

ROMA/ローマ(2018年製作の映画)
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緻密なモノクロの映像で、海辺で抱き合う彼らはロダンの彫刻みたいに研ぎ澄まされていた。重なりあう彼らは、それひとつで何か別の生き物のように見えた。生々しいのに石像みたいにさらりとしていた。触れたらきっと冷たくてすべすべしてるんじゃないか。あのまんま美術館に展示されていても何の不思議もないだろう。

カメラの動きがいい。横と縦に動く視線のコントロール。押し付けがましくなくて、寄せてはかえす波のように心地よかった。

彼女にむけられた銃口はまるで私自身にむけられたようで、呼吸気管が冷えたみたいに、うまく息が吸えなかった。
でも私はクレオじゃなかった。だからただそれを、映画のスクリーンを見つめることしかできなかった。
穏やかな家族と家政婦さんの暮らし。ぼんやり眺めていると、その一歩先からは突如苦しいものがやってくる。夫の不倫と離婚、逃げた男とクレオの堕胎。

そして彼らは大きな波から {彼ら自身を/愛する人を} 海から助け出した。愛があるから助けたのか、助けたから愛を自覚したのか。心と行動との間にある淵を見たような気がする。「思うから、できた」のか「できたから、思う」のか。その淵を埋めるように彼らは抱き合った。

そしてそれを眺めているだけの私。あの映画を見ているとき、わたしは私のからだと心が映画館の座席にあることを強く自覚した。わたしはこの映画をただ眺めているだけなのだと。

おもえばはじめっからそうだったんだ。流れる水とそこに映る雲と飛行機。何がどうなっているのかわからなくて視線を上にやってもカメラは動いてくれない。私はじっとカメラが動き出すのを待つだけ。そして押し寄せる波。ラストの空と飛行機。

緻密なのに息苦しくなくて、それはきっとこの映画を私が見つめることしかできなかったから。映画を見ている間、こんなにも自分のからだの現在地を自覚したのははじめてだ。わたしは永遠に第三者だった。