おかだ

ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語のおかだのレビュー・感想・評価

4.6
圧巻のグレタガーウィグ、脚色賞をあげちゃうわ


名作古典「若草物語」の何度目かの映像化作品にして、2020年アカデミー賞賞レースにおける注目作です。
惜しくもノミネートされていた作品賞などの主要部門は逃すも、衣装デザイン賞において納得の受賞を果たした。

いきなり感想を言うと、今年度トップクラスの快作。非常に完成度が高い。
間違いなくグレタにとってもシアーシャローナンにとっても代表的な作品となるような、快心の傑作となっていました。


あらすじは、南北戦争時代のアメリカで貧しくも仲良く暮らす四姉妹の成長を描いていくという、不朽の名作小説そのままとなっています。

既に3〜4回くらい映画化されていて、おそらく一番有名な1949年版は私も鑑賞していたのでなんとなくのあらすじは頭に入った上での鑑賞。
ちなみに1949年版の感想としては、物語自体はめちゃくちゃ平凡で、どちらかというと衣装とか児童文庫の世界観を楽しむ以外にはそんなに見どころは無い映画かなと、思ってしまったりしました。

今作も当然、あらすじに大きな変更点も無く、今をときめく若手俳優陣による豪奢なお遊戯会となるのかと思っていたけれど、いい意味で完璧に期待を裏切られたな。


まず今作では一つ大きな脚色が加えられていて、それがびっくりするぐらい上手くいっていた。
それは、時間軸の交錯。

またか。と思うでしょう。
「パルプフィクション」以降なんかな、近代では猫も杓子も時間軸操作をやりたがるもんで私もうんざりしとります。
直近では先週に評した「ANNA」なんかがこれの典型で、分かりやすいくらい無意味に無策に繰り返し使っていた手法であります。

しかし今作ではこの上なく効果的に用いられ、物語を通したメッセージ性の伝達力やテンションの持続に大いに貢献していました。

まず何よりも上手かったのは、四姉妹がそれぞれ現代の時制でぶつかった困難など対して取る行動や決断の根拠として過去の出来事を挿し込むという演出を取るために、時制の交錯を行なったこと。
これによって今作の主題である、"キャラクターの成長"を分かりやすく見せていた訳やな。
例えば顕著なのは、エマワトソン演じる長女メグが高価なドレスを借りて浮かれているのに対してローリーが身の丈に合った方が良いみたいなことを言う場面が幼少期パートである。
それに対して、現代パートでは見栄で高級生地を購入したことを反省して夫との仲を深めるというシーンが呼応する。

「成長」とはえてして、過去の失敗や反省を未来での行動や決断の糧にすることに他ならない訳で、その本質に限りなく近づいた映像表現を行うための手段として時制のスイッチという演出を取り入れてきたんだなと、唸らされる完璧な脚色。
その他、やはり時制の並列による場面反復という演出もかなり見事に行われていた。
わけても、ジョーが階段を駆け下りる動作の反復で見せるベスとの死別シーンは、それまで繰り返されてきた色彩の寒暖対比表現もピークに達する、まさしく今作の白眉やったと思うなぁ。

そういった文字通り表現のための技法としてはもとより、原作がそれなりに単調な小説ではあるために、映画化に伴って生じる明らかな中だるみという娯楽面の欠点を補う機能も兼ねていた。

さらにさらに、肝心の時制のスイッチカットの演出もいちいち凝っていて余念がない。
まずアバンタイトルは現代パート、NYの市街を疾走するジョーから始まって「7年前」の字幕説明で過去に戻るんですけど、この後一切字幕やナレーション説明を用いずに時制を行き来するんですよね。
にも関わらず、姉妹の衣装やメイクの違い、ジョーの断髪エピソードによる髪の長短や、色彩の寒暖差等の変化によって一目瞭然に切り替えていく。
「君の膵臓を食べたい」なんかでも上手くやってたなこの辺り。

あとはもちろん、もともとこの若草物語が一貫して持つ、児童文庫のようなあの世界観を完璧に再現してみせた衣装デザインはさすがの力の入れよう。
かと思えば、ジョーとベスが佇んでいる、今作から切り離されたような、死のイメージがうっすらと漂う海辺のシーンも印象深い。
あとは言うまでもなくlittle womenの製本により反復されるオープニングとエンディング。手堅いなあ。


最後にやっぱり触れておきたいのはグレタガーウィグ。
ずっと、マンブルコア運動などで比較的小規模な映画界隈で活躍してきた彼女ですが、「レディバード」のヒットを受けて今回ついに大作に挑戦。
役者勢も四姉妹は言うまでもなく、母親役にローラダーン、叔母役はメリルストリープまで担ぎ出してくる立派な大作っぷり。

ただし大作になってもやっていることは変わらず、一貫して女性の自立や成長を描いており、今作はもはやその集大成ともいえる完璧な仕上がり。
終盤のコピーライト(著作権)絡みや、結婚に関して母を前にジョーが気持ちを吐露する辺など、原作になかった改変部分にグレタのエッセンスと原作リスペクトが詰まっていた。

旧時代的な価値観や他人の助言に迎合するのではなくて、あくまでも自分の体験や想いに従って決断することによってのみでしか紡がれえない、まさに「私の」物語なんだと、いうメッセージ性がかなり真っ直ぐに伝わってきた。
そういう意味では「ストーリーオブマイライフ」という1Dみたいな邦題も非常に的を得ている。

いやしかし、ここまでの物を作り上げたとなるとやっぱり主要な賞が獲れなかったことがどうしても悔やまれるなあ。
今年は作品賞の「パラサイト」が怪物すぎた印象なので、本当にタイミングが悪かった。「グリーンブック」にぶつけていれば絶対に獲れたろうに…。
何より脚色賞なぁ。「ジョジョラビット」ではないよなあ。あれも大好きな映画ですが。


色々脱線しまくった上にほとんど映画の話が出来ていないですが、ひとまず今年最高クラスの快作なので絶対に劇場でやっているうちに観に行ってくださいというコメントで締めたいと思います。

余談ですが、フローレンスピューが花の冠被ってたときは、ティモシーシャラメに熊の毛皮着せて火をつけたりしないかと思ってハラハラしましたとさ。
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