Frapenta

ドンバスのFrapentaのレビュー・感想・評価

ドンバス(2018年製作の映画)
4.5
完全にウクライナ版1984ではないだろうか。ほぼノンフィクションに近い作品だし、この作品が公開された2018年から4年後、実際に戦争が起きてしまったため、この事態を予見していたといっても過言ではない。
いやはや、ディストピア作品のようなことが現実になると、一切笑えなくなってしまった。これはたまげた。
そもそも、2014年にすでに戦争の予兆があったのに、自分は何もわからず過ごしていたのが恐ろしい。


"「ドンバス」は、8年前に起きた「分離独立派」とウクライナ軍の軍事衝突を背景に、ロシア語系住⺠の多いウクライナ東部の政治や社会、住民たちの極限下での状況を、強烈な⾵刺を織り交ぜながら描いたフィクション作品"
https://forbesjapan.com/articles/detail/48466?read_more=1


約2時間に散りばめられた様々なストーリー。一見散漫としているようでゆるーく登場人物がつながっている。

自演の爆撃によって作られるフェイクニュース→塹壕でそれを観る人
ドイツ人記者到着→軍の内部で取材
バスが通りすがる→そのバスが爆撃に遭う
そして最後は最初のシークエンスで出たフェイクニュースの製作陣の惨殺、それをまたもやフェイクニュースにすることで円環構造を成した。
フェイクニュースであるとはいえ、ニュースを観ている住民はリアルと信じ込んでいるため、この演者全員の殺害はまたもや不安を呼び込むだろう。しかしこれは自国の自作自演。国を成すためには規律を、規律を成すためには国民に犠牲を払わせ引き締めさせるのが最も効果的なのだ。これは1984での自国にミサイルを放ち仮想敵のせいにする構造と酷似している。また、その前でも国境付近にいたバスが襲撃されているが、それもおそらく自作自演であり、1984の世界そのものであった。
1984とは違うシーンでいうと、車の無償提供を称した押収の場面だ。そこは唯一クスッとしてしまったシーンで、された身にとってはこんな酷いことあってたまるかといった具合だ。最初は突然の押収に信じられない様子だが、次第に本気で奪い取ろうとしてるのを知り息を呑むのである。それで軍が背後に漂わせる処刑に対するプレッシャーによってやむなく従わせられることになる。
(ここの会話で不覚にも笑ってしまった。「君の持っている物は潜在的に危険なので罰金10万だ。少しでも駄々捏ねたら20万に引き上げる」みたいな事言ってて、小学生レベルの脅しだと思った。だが処刑のリスクを考えると……何も口出しできない)
それで、押収と罰金が決まり部屋を出ると、同じ目に遭った人々が金集めに必死になっているのである。つまり、押収された上に軟禁状態のようにされてしまっているのだ。こんなことに突如巻き込まれてしまってはたまったものではない。死んだ目になりながら傀儡のようにふらふらする人たちを観て、他人事だからこそまだ笑える部分がある。

しかし、上記は実際に起きているという認識も持たなければならない。
これがフィクションであればどれほど良いことか。監督自身は、本作品で起きている事件は実際に起きたことだと明言している。実際にドンバスに関する記事を閲覧していると、「取材団が来たら爆撃がくる」噂が実際にあり、この映画は人ごとにはできないそう。なんて恐ろしい世界。メディアが伝える戦争は国の中心部が描かれがちで、板挟みとなっている地域の状況は詳細にはわからない。だが、このような映画を観ていると、映像には残せないほど凄惨極まりない状況に陥っていると推察せざるを得ない。


本当に皮肉を込めて作ったのだろうか。
これもうただの混乱の内部に迫ったドキュメンタリーでは??
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