MotokiA

ジョーカーのMotokiAのレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
4.0
■ジョーカー 2022/08/07 4.0

これ見るためにダークナイトとか観たのに結構間隔あいてしまった。
BSでサブカルチャー史の番組観た流れで鑑賞。この作品がヒットした理由について世相とのリンクさせる考察が興味深かった。

実際に観てみてこの時代にヒットし、公開からしばらく経っても度々話題に上がるのも腑に落ちる点が多かった。
助けを求めているのに無視されている人たち、存在すら無視されているように扱われている人たちの苦難や孤独、怒りを象徴した話。
建前の世界では自由と平等、人の命に軽重はないと美辞麗句が並べられる。でも実際には貧しい人、社会的に弱い立場の人たちは見捨てられ、そこから抜け出すチャンスすら与えてもらえない。
金持ちも彼らが作る社会の仕組み自体も、弱者の犠牲を黙殺し踏みつけることで成り立っている。
社会から無視され名前も永遠に忘れられる人たちが日々孤独に死んでいく一方で、金持ちや権力者の命は惜しまれ悼まれる。

アーサー自身の私怨は個人的で身勝手なものと切り捨てることは簡単かもしれない。しかし彼の怒りや孤独は劇中のみならず現実世界においても、疎外され孤独に苛まれ、やり場のない怒りを抱えた人たちにとっての拠り所になり共感を得ているのかもしれない。
反逆の象徴を得た人々の感情のうねりが引き起こしうる社会の混乱や暴力の蔓延、映画ほどドラマチックではなくても現実世界でも沸々と湧き上がっているように思える。

この20年30年にわたって市場原理、エリート主義、自己責任論等々によって少しずつ破壊されてきた自由と平等という価値観。ナショナリズムやポピュリズムの台頭によって分断されてきた社会。現実世界でジョーカーを模倣した犯罪者もその個々人の動機だけでなく、現代社会が抱えている格差や疎外という病理についての検証と解決のためのアクションが求められているのかもしれない。

暴力や犯罪を肯定しているとか誘発するという、表層的な批判があるのは理解できなくはないが、むしろ多かれ少なかれ誰もがジョーカーに共感してしまうことで自分自身の内面の暗い部分に目を向けたり、反対に自分たちが普段無視したり搾取している人たちの怒りを自覚したりするきっかけを与えるような、警鐘のような作品だと感じた。

エンディング、病棟の職員に追い回されるベタなコメディ的な描き方があまりにも皮肉に満ちていていたたまれない気持ちになって鑑賞を終えた。
危うく美しい作品だった。
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