わこつ

ジョーカーのわこつのレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
4.8
精神障害とトゥレット障害を抱えて発作に苦しみながらも「人々を笑わせる」という大きな夢を掲げる心優しい男“アーサー”が、街を包む巨大な狂気に自らも徐々に呑み込まれていき“ジョーカー”へと変貌していく物語。

最初は誰かに引き金を引かされていたが、やがて自ら引き金を引くようになり、誰かに引き金を引かせるようになっていた。
狂気に溢れた街で自由になり、解き放たれるには、自らが狂気そのものとなる以外に道が無かったのだろう。

この作品は悲劇だが、社会の片隅でひっそりと影に隠れて生きざるをえない者達の復讐劇でもあり、そして喜劇でもあると思う。
「人生は近くから見れば悲劇でも、遠くから見れば喜劇である」というチャップリンの遺した言葉があるが、そんなチャップリンの『モダン・タイムス』を社会の光の象徴であるトーマス・ウェインを始めとした富裕層達が劇場で鑑賞しているシーンには一体どれだけの皮肉が込められていたのだろうか。

IMAXで鑑賞したが劇中で放たれる銃声の一発一発がズドン、ズドン、と胸に重く響き渡り、まるで彼らの心の叫びのようにも聞こえた。
荒んだ街の光景やアーサーの姿が画面の端から端までいっぱいいっぱいに広がって没入感が高かったのでIMAXで観て本当に良かった。

悪役を主人公とした作品だが、劇中に本当に悪い人は殆ど出てこず、出てくるのは社会の犠牲となった者のみ。
誰の心にも善意と悪意は両方あるが、悪意は積み重なっていくものなのだろう。
悪とは一体何なのだろうか、とも考えさせられてしまった。

アーサー/ジョーカーに同情することは決して無いが、トイレの中や階段で華麗なダンスを魅せるアーサーを見てなぜか目を潤ませてしまっている自分がいた。

冒頭からワーナーの大昔のロゴマークが出てきて画面一杯にタイトルが出るレトロ演出や、役作りの為に体重を20キロ以上落としてガリガリに痩せたホアキン・フェニックスの見事な怪演が光る上質なスリラー作品。
映画間の繋がりは無いが、先に『バットマンビギンズ』『ダークナイト』や『キングオブコメディ』を観てるとこの作品をより深く楽しめるかもしれない。
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