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世界一と言われた映画館のodyssのレビュー・感想・評価

世界一と言われた映画館(2017年製作の映画)
3.0
【酒田文化史(その2)】

山形県の日本海に面した都市・酒田には、かつて映画評論家淀川長治が「世界一」と評した映画館があった。単に映画を見せるだけでなく、挽きたてのコーヒーを飲ませる喫茶スペースなど、文字どおり贅沢な作りの映画館であった。そこで輸入されたばかりの洋画を見ることが、昭和30~40年代の酒田の人々にとっては「文化」的営為の最たるものであり、その点で言えば東京の銀座にいささかも引けをとるものではなかった。

けれども、昭和51年、酒田は大火に見舞われて中心街の大半を焼失する。それも、この映画館が火元になって。

本作品はこの映画館やその運営者、映画館に通っていた人々、中心街の人々などを映し出したドキュメンタリー。

地方都市は、いま、酒田に限らず郊外の大型モールに人が集まり、中心街は寂れる一方である。また映画も郊外の大型モールにシネコンが併設されているケースが多い。

そういう意味で言えば、映画を中心街の映画館で見る意味は現在、必ずしも大きくはないのかも知れない。

しかし、映画館で洋画を見た後はバーで一杯・・・というような真似は、ショッピングモールでは不可能である。子供を含む家族連れならそれでもいいだろうが、大人の文化の場所としての映画館は、中心街から姿を消すことで、確実に文化の一環としての意味を変容させてしまったのである。

そんなことを考えながら、しみじみ鑑賞しました。
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