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悪魔はいつもそこにのgeminidoorsのレビュー・感想・評価

悪魔はいつもそこに(2020年製作の映画)
4.2
暗い暗いと皆さんがレビューされていたから、体調の良い時にでも観ようと先延ばしにしていたのをやっとこさ鑑賞。
どうしてワタシには当りくじ。
期待していなかった分だけ、独特の雰囲気やリズムを堪能した。横に居たカミさんも観終えて幕となると、まるで皇族の様に静かに五発位かな、ゆっくり拍手していた。(笑)
きっとワタシ達みたいな紆余曲折の人生裏街道を歩んできた者には、この暗さも重さも決して何処か遠くの解せない話なんかではなく、或る意味でリアルさを感じたのかも知れない。
ワタシが"いやぁ良かったなあ〜"と言うと"うん、かなり良かった。凄い良かったよ"と来たもんだ。



映画の事象としては人が死ぬ。殺されたり自死したりする。
妬みや依存や騙しや絶望や…"罠"とは云えぬほどの愚かでおぞましい人の業が成した負のぶつかりが(演出としては淡々と)アメリカのオハイオ州の片隅で起こる。
派手な演出や奇抜な展開は無く、一つ一つの場面展開は早く、時折挟まれるナレーションが観る者を或る方向へ誘う趣きをヨシとするか煩いとするかで、印象は別れるだろうと思う。
舞台はノッケンスティフという、町の住民殆どが親戚関係らしい田舎を中心に、ストーリー全体はブーメラン構造を辿る。
時代は第二次世界大戦とベトナム戦争の間だという事に気付かなければ、本作の味わいは深まらないかも知れない。その時代に生きた主人公と父親のニ世代を軸に、何人かの特徴ある登場人物を絡めて話は進む。
進むのは2時間強の所要時間の中、構造的には縦糸と横糸が偶然や運命の悪戯に反応し、それを一言で形容するならば、"暴力の連鎖"であろうか…

本作、原作を読んでいないワタシは想像の枠は狭いのかも知れない。そして確たる宗教心の無いワタシには、この様な信仰が強く絡む話をいつも何処かで戸惑いながら受け入れている傾向がある。幼い頃、10年間は日曜学校(バプテスト教会)に通っていたのに、記憶と影響と言えば…"薄暗さの中に毎度視てしまう小さなステンドグラス窓のなんとも言えない明るさ"が一番に挙げられるだけなワタシだった。



本作品、観て良かった印象を具体的に挙げるとー
先ず、映像が美しい。
フィルムなのか光の捕り方なのかは分からないが、自然の緑や夕闇の空や灯や衣服等が息づいて観えた。どんな時間帯であれ。光と影のコントラストが美しく、特に影の部分を"暗くではなく黒く"焼いていた様な映し方がテーマに合っていたと思う。
兎角、画面内で人が殺されたり陰惨な事件が起きれば、観る側はついつい起きている事象ばかり追ってしまいがち。だが、本作の様に自然や、物や、取り巻く環境の撮り方次第で話の深みは変わってくるだろうと思う。

次に配役がなんというか…とっても決まってた。バチっときてて、各人の存在自体が或る意味で匂い立っていたと思う。
主人公や義妹や実父以外は為人がそう深く掘り下げられてはいなくとも、そこは群像劇の様相も有り。

物語は、"鈍く暗い輝きの鎖"の様に繋がってゆく。
ノッケンスティフに生まれ、父親の自死により故郷を離れた主人公は、愛する家族に対し酷い仕打ちをした牧師を父親が大戦より持ち帰った銃で復讐を果たし、結果故郷を目指す。ゆきずりの悪意に対してもその銃で対抗する。
併し生家は火事で焼失していたのだが、主人公は幼き日に父と祈りを捧げ、愛犬の亡骸も放置したままであった森へとゆく。
其処で彼はもう一回やむなく銃を撃つ。彼(主人公)に妹を殺された悪徳警官が、決して捜査ではなく復讐に来たのだ。
この構図は、やはり義妹の死に対し原因の牧師へ復讐した主人公とリンクしてくる訳だ。

この様に一見関連が無いかの人々が、運命的に絡み合う。
逃げ出したいとか変えたいとの想いがあるのに、結果死んでゆく。
それは"暴力が暴力を保って制する行く末"を示唆しているかの様だ。

バケツが転がる前に義妹はどんな考えに辿り着いたか?
(異常な性癖の写真家の連れである)前述した警官の妹は数分後に命尽きるとも知らず、何を夢想していたか?
沢山の登場人物の内、主人公以外の皆が揃って悪に染まり切っていた訳ではない。

思うに…原題のDevilは銃口を向ける行為や拳を執拗に振り翳す事だけではなく、常日頃というか過去から脈々と繰り返される人間の欲望に潜む魔(魔がさすのマみたいな)だと感じたりした。
其の連鎖を、主人公がラストに愛犬の骨と一緒に断ち切るべく、黒い銃を埋める。
ヒッチハイクしたヒッピー風の男との道行きに、主人公の素直な願望を私達観る側はナレーションで知る。時代は泥沼のベトナム戦争の渦中である事実は、ラジオの内容とヒッピーや車の様相と主人公が心の中で呟く"軍にでも入隊するか"だったか…その台詞で判る。

故郷と訣別した彼は、初めての様に睡魔に襲われて物語の幕は閉じる。
眠りから覚めた時、願わくば安全であって欲しいと祈ってしまう。
彼は居場所を探し、つまりは新天地を求め、財も身寄りも皆無であるから結局は軍隊に入るのだろうか…
それはチカラの行使、言い換えたならば暴力の連鎖はメビウスの輪の様に繰り返される=それが人間の業であると暗喩されているかの様であった。
ラスト一抹の希望的な空気感を保たせながら、実は怖しい真理(人間の歴史)を描いていたので、この予算での作品の制作力というか作り手のガッツに拍手したいと思う。


補:ちなみに拍手はカミさんに習って、皇族の様にゆっくりマを空けて静かに五発位をー
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