あずき最中

ホットギミック ガールミーツボーイのあずき最中のレビュー・感想・評価

3.3
原作は3巻まで読了。

原作の初はいかにもお人好しというか、どちらかというと楽観的な印象だったのでアンニュイな雰囲気の堀未央奈ちゃんがどうハマるか気になるところだったけれど、少なくともこの映画単体で見たら結構ハマり役だったのでは。

最初のカットで、目〜鼻あたりをかなり寄りで撮っていて、肌の質感がばっちり映るあたりから、「アイドルではない堀未央奈を見せますよ」と宣戦布告された気分になった。


演出については、とくに冒頭10分の登場人物タイムは、3人の男子がどんどん出てくるわ、大音量のクラシックが流れるわで正直とてもしんどかった。
(音楽にうとい私でも知っている音楽ゆえに、音楽をそらで追えてしまい、セリフが頭に入らない感覚に陥った。せめてもう少し音量小さければなあ......)
写真の挿入は使いどころによって上手く作用していたと思う。
山戸さんの演出、すべてが好きとは言えないけど、映像の色味とかは好みだなあ。

男性陣のキャストは新進気鋭の役者ぞろいで、原作の再現度は別としてやっぱり見ていて安心感がある。
キャスト陣もインタビューで語っていたけれど、少女漫画というフィクションをどこまで現実世界へ自然に持ってくるかに挑戦している気がした。

それゆえに、梓くんが初を口説くシーンでキャスターつきのイスで動き回るシーンや、凌の部屋で初がココアを盛大にこぼすシーンが演出過多にも感じてしまったけれど.......。

①梓
彼がやらかしたことはここでは割愛。
いけすかない彼について考えてみたら、
彼がやたらと椅子に座っていることに気づいた。

A.教室の席につき、学内カースト上位に囲まれる
B.初が荷物持ちに付き合わされたあと、中庭の白く四角いイス(照明?)に座って梓と話すシーンで、指をてくてく歩かせて初を挑発する
C.パスポートを届けにきた初をキャスターつきのイスに座りながら誘惑する
D.失踪から、渋谷のビル内で大きなベンチに座りながら初を待ち受ける

まあ、イスに座るなんてよくあることなんだけど、「光るイス」「キャスター付きのイス」が印象的だったので気になった次第。
しかもイスに座りながら、初にちょっかいをふっかけるのである。キャスターつきのイスであれだけ動きまわるのは後にも先にも彼だけだと信じたい。
ここからは憶測になるが、イスには「居場所」のイメージがある。
梓がイスに座るのは単に精神的余裕の現れかもしれないが、初と渋谷で再会したときには負の感情をむき出しにして、ベンチから立ち上がる。
リナに言わせれば「子どものように不安そうな」梓の顔を見ていると、イスとは、揺らぐ自分の存在意義を認めてくれる場なのかもしれないと思った。
クライマックス、初と座って話したあとに立ち上がって去っていくのは、梓の精神的成長の行為なのかもしれない。
※ここまで書いて気づいたが、あいつ冒頭では車の座席にいたんだなあ......。
余裕綽々ですな。

②凌
「人を殺しそうな目」と言われがちな間宮さんが終始悲しげな演技に徹していて新鮮だった。
しかし、終盤で梓が「妹を襲いたい」衝動が目に出てると言ってくれて、「うん、全員思ってた!!」という気分に。
キャスティングに関しては作品イチ、はまってたかも。


ココア作るのが上手いのは、漫画でも出てくるのだろうか?
個人的には粉のココアって、少量のお湯で溶かす+あたたかい牛乳を注ぐというじみに手間のかかる飲み物なので、それをちゃんと作るあたり繊細な人間という気がする。
とはいえ、ココアこぼした次のシーンからのバンホーテンココア(?)1リットル×2本持ちと白い服から茶系の服で登場するのは笑わせに来てるのか!?と思ってしまった。

亮輝がいう「汝姦淫するなかれ」を地で行く男なので、最後の「神様に願うとしたら......」の下りが切実に響いた。
逆に、行動には見えなくても、姦淫にあたる思いに自覚があるからこそ、自分の幸せは諦めているのか......幸せになってほしいなあ。

ちなみに凌くんは、床や地べたに座ってたりする事が多くてそれも梓とのギャップがあった。

③亮輝
基本的には清水くん目当てだったので、彼が出てくるシーンはなんだか楽しかった。
奴隷宣言でドン引くのは当然の反応としても、原作での「家庭教師に迫られたけど経験がなくて恥をかいた」という設定を知っていると、こじらせた純情ボーイでしかないのである。
女の子の顔つかんだりするのはどうかと思うけど。
「お前といると宇宙感じるよ」とか、「世界は自分のためにある」とか、言葉がいちいち壮大なのが、賢いのに思春期真っ只中で憎めない。

「だれかがかわいい/かわいくないって言っても気にすんな! 俺がそうだって言ったらそうなんだ! ハイ、解散!」は作中トップクラスに微笑ましいシーンでとても好き。

全能感に満ちた彼が、無力さに涙するシーンは刺さるものがあった。
彼のテーマソングの「パッへルベルのカノン」は、「カノン」が追いかけ合うような様式ということもあって、初との追いかけ合いを連想させるし、卒業ソングとしても人気なので、成長のイメージももたらしてくれる。

亮輝くんは、自転車2人乗り→階段の上側に座る→塾や公園でとなりに座るなので、段々目線が主人公に寄っていくようなイメージかな。

④初
観賞前は「女が見たらイライラする女」とウワサだったので不安だったけれど、個人的にはそんなにイライラせずに見ていられた。
冒頭の茜とのやりとりで「わかんないよ......」と一人で呟いていた彼女が「わかんないけど」と連発して、なにかを掴みとろうとしていく姿に成長を感じる。

最初は私なんか......というテンションだったのに、梓の「かわいい」を必死に求めるさま。多くの女性が心当たりがあるのではないだろうか。
でも、亮輝との一件のあと、凌の家を訪れるシーン、あそこは「女の子の弱さ」という色が強くて、少し辛かった。

終盤の「先のことや、確かなことは分からなくても、今の気持ちを大切にしたい、自分自身を追いかけていたい」という叫びは若いパワー満載で好き。
「今が良ければいい(=あとのことはどうでもいい)」じゃなく、「今の気持ちを、明日も更新して生きていきたい」と思えるようになったのは良かった。
掛け合いが結構早かったからまたの機会にきちんと見たいな。

⑤茜とスバル
スバルくんのセリフは切れ味満載で見ていて気持ちがいい。
「男の子は〜」とレッテル貼りをする茜に対して「女の子扱いされたくない、私だけを見てというのに、そうやってラベリングするのはどうなの?」と強烈なパンチを食らわせるスバルくん、強い。

茜ちゃんはなかなかのおバカだけど、中3だからなあ、あんなもんなのかね......。
少なくとも両親からは充分愛されているけれど、やっぱり誰かを愛する立場にならないと、愛の重みを感じれる器にはならないのか?

⑥リサ
このキャラクターの生い立ちはあまり知らないので難しいけれど、この女性は「傷を恐れて生きてきた人」という気がした。
すぐに表面的な謝罪をするし、初にも指摘されていたように梓にきちんと向き合えていない人。
大人だからというのも多少はあるだろうけど、その割に初に対する態度は悪質。
言いたいことを言って初への思いやりはゼロ。
初のことを幸せ者だと揶揄するあたり、何かしら辛い経験があったんだろうけど、だからといって人を引きずり落としていいわけではないからな......。
作中の扱いとしては、反面教師って感じなのかな。観賞中は「コイツやべえな」という気持ちが勝っていたので、冷静な目で見返したい。

まとまりがなくなってきたのでこのへんで。

気持ちは目に見えないし、ひどく曖昧なものでどんどん形を変えて、ときには消えてしまう。
だけど、誰かに伝わった瞬間、良くも悪くも何かしらの形になって自分に跳ね返ってくる。
そういう気持ちのありかを探して、掴みとろうとしている映画のような気がした。
あずき最中

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