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カンボジアの失われたロックンロールのhorryのレビュー・感想・評価

5.0
カンボジアと聞いてまっさきに頭に浮かぶのは、クメール・ルージュとポル・ポト政権。そのイメージとR&Rがつながらなかったのだけど、このドキュメンタリーは、ポピュラー音楽を軸にして、豊かだった文化が政治によって押さえつけられ、痛めつけられていくさまを描いている。

クメール・ルージュ以前、フランス、キューバ、アメリカなど様々な国の音楽の影響を受け、カンボジアの音楽とミックスされていく一方、古典的な歌唱法も人気を誇っていた。田舎の農村地域でも、50年代末にはエレキギターで踊っていた、というエピソードは驚いた。

作中に登場する多くのミュージシャンが殺されたり、行方が分からなくなっている。ミュージシャンであることを隠し生き延びた女性歌手が、1979年のポルポト政権崩壊後、プノンペンに戻って歌った「Oh! Phnom Penh」が映画のラストシーンに流れる。映画の前半に映っていたモダンで華やかな町は、このソーンで建物が崩壊し荒れ果てたものに変わっている。

ポピュラーカルチャーが政治の標的となるのは、それが、人々の身近にあって、勇気づけたり、支えたりするものだからだ。崩壊してしまったプノンペンに流れる「Oh! Phnom Penh」は、カンボジアの哀しみだけでなく、その強さも示すものだと感じた。
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