柴田龍

運び屋の柴田龍のレビュー・感想・評価

運び屋(2018年製作の映画)
3.5
90歳。ただ歳を重ねるのではなく、刻を丁寧に積み上げたイーストウッドが、普遍であることを演じてくれる、魅力ある一本でした。
家族と時間に囚われず、信じる道を歩んだ男。老年を迎えて、それはただのワガママだったと気がつき、遅れてきた取り戻すための手段に、図らずも踏み出してしまう気持ち。うまく軌道に乗り、調子に乗ってしまう表情。きっと成功と失敗を何度も何度も繰り返してきたのだろう。そして、同じように繰り返してきた人生が、終わりに近づいてきた時。
一つ所にとどまることのない、当意即妙な描かれ方をするアールの姿とは裏腹に、物事はただ一方向に進んでいってしまうので、先の見える展開では確かにあるけれど、映画を貫く、極めて大事なものへの気づきに、常に真摯であれというメッセージを表すラストシーンに、心を暖かく包まれた気がしました。
目先のことに忙しく、時間の傍流に立つことを恐れ、周りを振り返ることに目を瞑ってしまっている、諦めの気持ちで日々過ごす方にオススメの映画です。
クリントの映画は、大仰さのない素晴らしき人間賛歌。ぜひ。
柴田龍

柴田龍