鶏

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーンの鶏のレビュー・感想・評価

4.8
『アメリカの黒歴史を記憶するための映画』

マーティン・スコセッシ監督の作品を観るのは、2019年に劇場公開された「アイリッシュマン」以来4年ぶり。「アイリッシュマン」も3時間29分に及ぶ超大作でしたが、本作も3時間26分に渡る超大作で、トイレの心配をしながら観に行きました。ただ、インド映画ばりの長編映画でしたが、全く長さは感じさせず、最後までトイレに行くこともなく集中して完走出来ました。

「アイリッシュマン」は簡単に人が殺されていく映画でしたけど、マフィア同士の抗争で、まあ言ってみればあっちの世界の話なのであまり深刻に感じませんでしたが、本作はインディアン(アメリカ原住民)であるオセージ族から、石油利権を奪うために彼らを次々に殺していくという話であり、実に後味の悪い話でした。しかも、原作となった「花殺し月の殺人 インディアン連続怪死事件とFBIの誕生」は、ノンフィクションだというのだから、まさに血塗られたアメリカ史を掘り起こした映画であり、その点でも大いに存在意義のある作品であると当時に、映画としても非常に完成度の高い作品でした。

お話の背景としては、インディアンの一部族であるオセージ族が、元々の居住エリアを追われてオクラホマ州の不毛の土地に追いやられたことから始まります。その後19世紀末に当地から石油が湧き出し、さらには20世紀に入ってフォードが有名なT型フォードを量産することに成功して一気にモータリゼーションが到来して石油需要が爆発的に伸びたことから、オセージ族は石油の受益権を得ることになり、莫大な富を得ることになったことが悲劇に繋がっていきます。

白人は、オセージ族から財産を収奪しようと、財産管理をする後見人になって財産を着服したり(オセージ族は財産管理が出来ないと決めつけて、政府が後見人を付けることを義務付けたそうです)、本作で描かれたように、婚姻を通じて財産を奪う過程で、殺しまでやったということのようです。

原作の「花殺し月の殺人 インディアン連続怪死事件とFBIの誕生」は、このオセージ族の連続殺人を、後のFBI長官であるエドガー・フーヴァーが、テキサス・レンジャー出身の特別捜査官トム・ホワイトに命じて捜査するという話のようで、映画化するにあたり、当初はディカプリオがトム・ホワイトを演ずる予定だったそうです。しかしこれでは白人がヒーローになる映画になってしまい、インディアンに対する虐待に光が当たらないということで、ディカプリオをオセージ族のモリーと結婚して財産を奪う側の白人であるアーネスト役にしたところが本作の凄いところ。

実際には、ロバート・デ・ニーロ演ずるアーネストの叔父で、”キング”ことヘイルが一番の悪者ではあるのですが、アーネストもキングの手先となって連続殺人に加担していきます。ただ、面白いことに妻としたモリーのことは本当に愛しており、だからこそ子供も作ってキングに窘められています。それでもキングの命令には逆らえず、モリーに毒を盛っているという駄目駄目な人間がアーネストな訳ですが、そんな人物像を絶妙な演技で表現したディカプリオは、素晴らしいの一言でした。
また、「アイリッシュマン」では主役を演じたロバート・デ・ニーロも、残虐な役柄を紳士風に演じて一層怖さを際立たさせており、こちらも最高でした。

本作は概ね100年前の話だった訳ですが、9月に公開された「福田村事件」もちょうど100年前、1923年の関東大震災直後の悲劇を掘り起こした作品でした。本作にしても、「福田村事件」にしても、言わば自国の黒歴史にあたる出来事を、記憶に留めるために創られた作品であり、こうした作品を創った制作者の方々に、改めて敬意を表したいと思います。

そんな訳で、本作の評価は★4.8です。
鶏