KentKajitani

ザ・ピーナッツバター・ファルコンのKentKajitaniのレビュー・感想・評価

4.1
素晴らしいロードムービーだった。

養護施設から脱走したダウン症の青年ザックと、兄を亡くした孤独な漁師タイラーの旅路を描いた物語。

監督2人が俳優が集まる場でダウン症の青年と出会い、彼を主役にした脚本を書き、その主人公を同名のザックと名付けたことからも、この映画が現実とパラレルな構造になっていることが分かる。

どんなに人に馬鹿にされても、自分を認めて支えてくれる人はいる、それでも自分のことは自分で鼓舞しないといけないし、依然として敵は存在するし、社会は厳しい。
でもリングに立ち続ける限り、負けることはない。
(個人的にはこの辺り、ザックが巨漢の対戦相手を投げ飛ばすという非現実的な展開よりも倒れても何度でも立ち上がって歓声を浴びるロッキー的展開で最後はノックアウトされるという展開の方が良かった)

また、これはザックの成長譚以上にタイラーの成長譚、そして兄の死を本当の意味で受け入れる禊の旅として見応えがあった。

かつて頼っていた兄を自分の不注意から死なせてしまった負い目をずっと感じていたタイラーが、ザックという弟的存在との触れ合いを通じて兄の役割を担い、途中ザックに元気付けられたりする中で兄の気持ちを理解し、真の意味で兄の死を受け入れる。

現実のザックのメタファーとしての映画の中のザックの成長の物語と、深い傷を負ったタイラーの再生の物語の2つを同時に楽しむことができる素晴らしい映画だった。
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