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アンカット・ダイヤモンドのmolysicsのレビュー・感想・評価

アンカット・ダイヤモンド(2019年製作の映画)
3.3
うるせー!!🤯
ウィークエンド
ガーネット、セルツ 実際の試合カンファレンスファイナル7戦
エルサの声の人


宇多丸さん

で、まずは何しろね、『アンカット・ダイヤモンド』、オープニングからぶっ飛ばされますよね。2010年、エチオピアの鉱山で、巨大なブラックオパールの原石が、すごく労使が大モメしている中、密かに掘り出され。それでそのダニエル・ロパティンさんの、80’sチックなモーグのシンセが鳴り響く中ですね、カメラがググーッと、その原石に寄っていく。『ミクロの決死圏』よろしく、その中の中の中の小宇宙にまで、進んでいく。

これ、ちなみにこういう顕微鏡写真家の作品を参考にした、ということらしいですけど。それでタイトル、『Uncut Gems』っていうね。要するに、カットされてない宝石たち。輝く可能性を秘めているけど……な原石たち、というこのタイトルが暗示するものも、後から考えるとなかなか味わい深いですが。とにかく、その『Uncut Gems』というタイトルが出たあたりから、このオパールの原石の内部に進んでいったはずのカメラ、どうも映し出してるものが、何か様子がおかしくなってくる。最終的に、「なんちゅうところにつながっているんだよ?」っていうところに至る。そして「2012年春」というクレジットが出る。

これ、『ファイト・クラブ』とか『エンター・ザ・ボイド』とかを連想させもするけど、とにかく「何を考えてるんだ!?」と誰もが驚きあきれる、このオープニング。このオープニングにまず、「ヤバい、この映画!」ってすごくアガるか、はたまた「わけワカメ……」となってただ引いてしまうかで、まずは本作との相性がわかる。だかららとりあえず最初のオープニング、見てください。ここで乗れなかったら、止めてもいいかもしれないです。はい。それで、そこからがまたすごい。ニューヨーク、ダイヤモンド・ディストリクトという、行かれたことがある方もいると思いますけど、要するに宝石をやり取りする場所があります。お店がいっぱいあるところ。

そこに店を開く、アダム・サンドラー演じるユダヤ系の宝石商、ハワード・ラトナーさんという方。クライマックスでも実は非常に緊迫感あふれる舞台となる、このお店。あのお店は、完全にセットで作ったらしいですけど。その主人公ハワードとその周囲の人物たち、その関係性、あるいは固有名詞などを、全く説明もなく、次から次へと、時にはセリフ同士、会話同士が、かぶりまくるほどの密度と速度でやっていく。

この、全てが同時に重ね合わせられて平行に進んでいく、というこの感覚はですね、ひょっとしたら我々日本人の観客には、今回、字幕で見るよりも、たとえば主人公のハワードに森川智之さんが声をあてている日本語吹替版の方が、ひょっとしたらこの情報重ね合わせ感とかカオス感とか会話のテンポ感とか、実はそっちの方がちょっと分かりやすいかもしれない、っていう意味で僕は今回、吹替版が結構おすすめです。はい。

一番ノリとして近いのは、やっぱり本作の制作総指揮にも名前を連ねているマーティン・スコセッシの、『グッドフェローズ』かな、とも思います。つまり、説明もなく固有名詞がバンバン飛び交うことで、逆にその業界の真っ只中にいる感じ……要するに、業界の中にいれば、固有名詞なんか説明しないわけですから。その感じが体感できる作り、っていう感じだと思いますね。はい。
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