おかだ

ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネスのおかだのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

ユニバースにおけるモダンホラーの快作


MCU待望の新作映画は、ホラー映画の巨匠サムライミ監督が手がけたドクター・ストレンジ単体続編となる「ドクター・ストレンジ マルチバースオブマッドネス」。

良くも悪くもMCU史上最大の問題作である前作「スパイダーマン ノーウェイホーム」で展開したマルチバースの尻拭いという大役を見事に担うことができるのでしょうか。


鑑賞後の感想は、とても面白い映画でした。
MCUというユニバースにおける単体ヒーローの成長譚をしっかり描きながらも、サムライミ演出により一本の映画として問題無く鑑賞に耐えうる強度も備えた傑作。

全体的な雰囲気や演出はモロにホラージャンルでMCUの中では全くの異質。
しかし終盤の徒歩ワンダ大暴れとゾンビストレンジなど、ヒーローアクション映画との親和性は問題なし。

ホラー映画としてはかなり長尺の部類となる120分強と言う上映時間も、150分超えがデフォ化してきた近年のMCU映画の中では好ましい尺。
これは序盤のドラマの異様なテンポが寄与したものと、マルチバースを扱いながらもドクター・ストレンジの成長譚とスカーレットウィッチのケジメという対比の軸以外を潔く切り捨てた判断によるものだろう。
そのほか必要な情報も、活劇やキャラクターの表情のアップなど映像の中で処理しきれていたポイントが多かったことも理由だと思う。


さて、次に脚本が良かった。
クリスティーンに象徴するような、ドクターストレンジとなる前のスティーブとしての生活に捉われる彼が、やがて時計の修理というモチーフを使って前に進んだ描写で締める、映画的反復のテリングが見事。
ドクター・ストレンジという単体シリーズの続編としては文句なしだと思うな。

そして演出については、言わずもがなゴテゴテのゴア描写を含んだモダンホラー描写の数々が楽しい。
イルミナティ壊滅からゾンビストレンジの誕生、そしてアメリカチャベスというファイナルガールの生存まで、しっかりと楽しませてくれた。

管弦楽器の音を重用した原点的なホラー演出の数々と、ついにはアクションそのものに音を可視化して織り交ぜたケレン味も面白かったと思う。
ドクター・ストレンジの戦闘描写はどうしても身体運動が少なくなるという映画的欠点も手錠肉弾戦で補ってみたりと今回は退屈しなかった。


最後に今作の賛否両論レビューと、MCUというコンテンツそのものに関する論争について少しコメントしたい。

前提としてMCUの単体映画はそもそも、単に一貫したヒーローアクション映画のシリーズではなく、これまでも作品シリーズごとに意識的にガラリとテイストを変えてきた。
今回のMoMは特にそれが顕著だったので戸惑った人も多かったかもしれないけれど、思い返せば常にそう。
タイカワイティティが手がけた「ラグナロク」は嘘のような喜劇だし、ルッソ兄弟が手がける「ウィンターソルジャー」は監督趣味のノワール演出をふんだんに取り込んだポリティカルアクションだし、クロエジャオの「エターナルズ」は多様性を盛り込んだ岩肌人間ドラマを基調とした神話アクションだった。
そして、思い返せば前作の「ドクター・ストレンジ」を撮ったスコットデリクソンもまたホラー映画の監督。
しかるにMCUでは、シリーズごとのテイストがまずイメージとしてあって、それに応じた監督の采配と、それに対するある程度の作風への裁量権を与えてきた訳だ。

ただあくまでもそれは、程度の差でMCUというある種のジャンル映画に内包されるものに過ぎなかったわけだが、それがかつてない程に分かりやすくジャンル映画色を帯びたのが今作だったのだろう。
そうなると確かに、従来の明快なヒーローアクション映画を求めていれば、おもてたんとちゃう。状態でスカーレットウィッチの人体破壊パフォーマンスを眺めるハメになったことは想像に難くない。
つまり、しょうがないよねっていう。

そして、「ワンダビジョン」や「ワットイフ」といった配信限定動画の予習を前提としたDisneyの商売への批判に関して。
これについては割と擁護派です。

というのも、そもそもMCU自体が作品数からして初見のハードルが非常に高いシリーズである。
なのでむしろ、月額約1千円で他のさまざまなコンテンツも楽しめるディズニープラスへの誘導がそこまで不誠実であるとは僕は思わない。

何より今作は先にも述べたように、単体鑑賞に耐えうるジャンル映画としての強度はある程度備えている。
比較するものではないが、近年の劇場版コナンシリーズと比べて、予習無しでも今作はかなり楽しめる映画だと思う。

余談だが個人的には、ピクサー作品の劇場公開取りやめをこそ責めたいところではある。


長くなりましたが、ユニバースの一環として、ストレンジの続編として、そして一本の映画としてよくまとまったGW公開の娯楽作品として申し分ない出来だと思います。おススメです。
おかだ

おかだ