KY

アスのKYのレビュー・感想・評価

アス(2019年製作の映画)
4.0
ジョーダン・ピール監督作。

『ゲットアウト』の監督の新作。ある日、アデレイドと家族は、友人夫妻と一緒にビーチで過ごす。その日の夜、アデレイドの娘ゾラが、私道に立つ4人の影を見つける。彼らは手を繋ぎ、アデレイドたちの方をじっと見ているが…。

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叙述トリック映画だった。でもそれが観客を驚かせるためだけに存在してはいない。怖いかどうかは置いておいて、色んな意味でホラー映画の本質を理解してる映画だと思った(大して怖くはないが)。

ホラー映画の場合、主人公が裕福で幸せな人間だからこそ『死にたくない!』という大前提が成立するし、観客もそれに感情移入して一緒に怖がれる。登場人物の幸福と不幸の落差が作中で重要となる。

そこに対しての二つのアプローチが良かった。一つ目は『裕福で幸せなアメリカ人=白人』という前提をあえて覆す配役にしたこと。

『またジョーダン・ピールだから人種差別ネタで来るのか?』と思いきや、その真逆で白人=裕福、黒人=貧乏という先入観の前提を崩す作戦。結果、黒人家族が主人公という何とも珍しい設定を背負う事ができてた。

二つ目はその『ホラー映画のお決まり=裕福な家庭』を手段として格差社会とその不安定性をテーマとして描ききったこと。

特にクライマックスの叙述トリックのオチは、オチになって初めて襲ってきた人間側への感情移入もさせる作りになっていた。

つまり観客は裕福側の視点に立っておきながら、オチを通過することではじめて貧民側の視点に立つことも出来る。観客は作品を通して両者の立場を想像する事ができる。

もちろんそんな暗喩を受け止めるだけの重苦しい映画ではなく、ゾンビ映画の様に危機をひたすら逃げていくホラー要素だったり所々のコメディに笑ったりもできるし、

叙述トリック映画なので鑑賞後『だから失語症だったのか!』とか『主人公のクローンだけ喋れるのはそういうことか!』などの伏線に想いを馳せることもできる。
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