Chico

ナイトクルージングのChicoのレビュー・感想・評価

ナイトクルージング(2018年製作の映画)
4.0
全盲の方の映画製作を追ったドキュメンタリー。

私は生まれてからずっと目が見えていて、それを前提に世界を認知して生活している。だから先天性全盲者の加藤さんの置かれている状態がどうゆうものなのかわからない。
なんとなく想像できるし疑似体験もできるかもしれない。だけど、視覚以外の気管、聴覚や嗅覚が どのように”ない”(健常者の観点からの"ない")部分を補っているのか。視覚以外の感覚がどのように世界を把握しているのかを知ることはできない。
一体健常者が見ている世界とは何がどう違うのか?
当然加藤さん(視覚障害者)も同じ疑問を健常者に対して持つのであって、このドキュメンタリーはその手がかりを見つけるために行う一種の実験的な試みでもある。

彼が映画を作りたい理由
①全盲の人が映画を作ることができるのかということへの挑戦。
②全盲の人(音だけで映像を捉えてる人)が作った映画を健常者(映像が見える人)はどう捉えるのか、それが知りたい。

製作は加藤さんとスタッフ間のコミュニケーションが肝心要になる。スタッフは皆協力的で、優秀な人達ばかりだけど、それでもさまざまなコミュニケーションの問題は出てくる。

健常者同士のコミュニケーションは言葉の概念やイメージを共有している状態で行われるけど、全盲者とはそれができない。例えば、"~という感じ"、というイメージを提示する説明は通じない。

物語の主人公はどんな姿をしているのか。どんな顔なのか、なにせ加藤さん自身が自分の顔を見たことがない。
そこで3Dプリンターで人物のフィギュアを作成したり、人骨模型を準備する。そしてそれらに触れ、指の触覚で形を判別していく。最大の難関は画面の色彩。それぞれの色を指定しなくてはいけない。どう伝えるのか、というクリティカルな問題も出てくる。

果たしてその結果何が生れるのか。誰も想像できない。だけどそんなことをやってのけようとした前代未聞のプロジェクトがこのドキュメンタリーなのです。

製作過程は興味深く、双方の世界認識の最大公約数から導き出せるのは何なのか。それをどう活かせば障害者の理解につながるのか。ということを考えさせられる内容でした。多くの人が観れば良いのにと思いました。

エンディングが"けもの"の"めたもるセブン"だったのは嬉しいサプライズ☝️
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