あお

窮鼠はチーズの夢を見るのあおのレビュー・感想・評価

窮鼠はチーズの夢を見る(2020年製作の映画)
4.2
8/25試写会にて。原作未読。大倉忠義ファンだが可能な限り贔屓目を排除し、邦画ファン・行定作品ファンとして観賞。

原作は台詞がかなり多く言葉の力が強い(それが魅力)そうだが、本作はかなり言葉少な。その分、行定作品らしい美しいカットが際立ち、映像から登場人物の心境や作品の世界観が伝わってきた。何度か、絵画を見ているような感覚も。静止画のようにゆったりその世界に浸れる場面がいくつかある。

今ヶ瀬以外、登場する主な人物に突飛なキャラクターはいない。すべての人物の気持ちが痛いほどわかった。
恭一に関しては基本的に「最低」だが、他人の気持ちに流される点は共感もできる。どこにでもいそうな人物で、特に男性は恭一の視点で楽しめるのでは。自問する後半と、最後の余白は心地がよかった。

余白に加え、切り口が多い。何度でも違う視点で楽しめそう(作品の世界観に浸る、各登場人物の気持ちになる、自分自身のこれまでの恋愛と重ねる(過去の経験然り、今後の理想然り))。一度では回収できなかった伏線、気付けなかった伏線、謎で終わったシーンもたくさんあると思われ、あと2回はスクリーンで観たいと思った。

関係者インタビューによると、本作は「与える恋愛映画」「感動させる恋愛映画」ではなく、登場人物とその俳優たちが最も“答え”を知っている作品だそう。俳優の中に沸く感情にまかせ、あえて演技指導なしで撮ったらしい。なるほど、美しい世界観の中にも表情や行動にリアリティがあるのはそのためかと納得。
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