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娘たちのkyoyababaのレビュー・感想・評価

娘たち(1962年製作の映画)
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優良なソ連製ラブ・コメディ。IMDbでも8.0の点数がついており、日本ではほとんど紹介されていないのが残念である。

主人公を演じたNadezhda Rumyantsevaはその立ち振る舞いがすでに面白く(国際映画祭では「スカートを履いたチャップリン」と称賛されたらしい)、日本で想起するならば『亀は意外と速く泳ぐ』で主演した上野樹里の飄々とした演技のようでいて、しかし『花より男子』の牧野つくしのような実直さと正義感をも兼ね備えた、第二次大戦後のシンボリックな女性像として安心して鑑賞できる──もちろんそこはロシア映画、愛を否定する超越者を憧憬するといった概念人物、単に結婚を社会的一制度としてのみ捉える無関心の存在、あるいはただ単に失恋による悲劇といった要素もしっかり脚本に含まれている──。

平たく言えば「男は男で/女は女で、群れて慰め合う」「最初は敵対視していた男女どうしが次第に惹かれ合うが、お互い素直になれない」という所謂王道のベタなラブコメ的展開だが、愛や恋を悲劇としてしか描いてこなかったロシアの風土が60年代にはここまで西欧化してきたのか、と感心できる(実際、『国際女性デー』の前夜に公開されたのは偶然ではなかろう)。

クリシェ的な男女の恋愛のやりとりには、正直さほど──というかほとんど──興味は持てなかったのだが、労働者村とその風景の描写は美しく──どうやら撮影はMosfilmovskaya Streetのセットらしいが──、かつてのソビエトの独身労働者たち(学生たちも含まれる)がどのような青年期を過ごしたのかが描かれており、その透き通った美しい空気と純白な雪景色、針葉樹林と丸太小屋の家屋、ミニマルな作りのサモワールなど、レトロ・ソビエトファンにも充分楽しめる映像に仕上がっている。

2013年のフルHDによるリマスターバージョンは映像の完成度が高く、ぜひ4Kで鑑賞されたい。
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