YUMiC

ひとよのYUMiCのレビュー・感想・評価

ひとよ(2019年製作の映画)
3.9
✍︎2021.09.08

ある夜、母が父を殺した。
暴力に苦しむこどもたちを救うために。
「これからは好きなように暮らせる。
自由に生きていける。
何にだってなれる」
そういって15年。
残されたこどもたちの前に
約束通り戻ってきた母。
壊れてしまった家族の再生の物語。

田中裕子様主演とあらば必ず見る私。
それに加えて、鈴木亮平、佐藤健、
松岡茉優となっては
もう観ない以外の選択肢はない一本。
蓋をあければ脇役の方々含め、
とにかく素晴らしい俳優人で
埋めつくしでした。
主役所は本当それぞれが圧巻で、
脇役所は個性豊かで、味があって、
もちろん物語ありきだけど、
この顔ぶれだからこその
見応えが凄かったし、
ほんわかしたり、ぐさぐさ刺さったり、
感情を揺さぶられた。

内容としてはずしんと重い。
でも所々笑えるユーモアがあって
しんどいだけじゃなくて
ここに出てくる人たちは
本当に純粋で真っ直ぐ生きてる
人たちなんだなって思えるから救われる。

犯罪者はどんな理由があろうと
世間からは人殺しと罵られ、
悪意のある人間たちからは
真っ当に生きることが許されない。
どんな命も平等で尊い。
そうだとは思う。
でも、それだけじゃ
本当に守られなければならないものが
守られなかったり、
善が悪になることが一概に
悪いと言えるのだろうか。

誰しもが一線を越えないところを
この母親は越えてしまった。
でもそれだけ守りたいものがあって
信じていたものがあったんだと思う。
「子供たちが迷子になっちゃうから」
それだけを思って、彼女は生きてる。
不器用で、とても深い愛で、あたたかい。

でも残された子供たちは
残された殺人者の子供という
15年の月日は壮絶で、
半ば呪いのように
母の残した言葉を背負いながら、
現実は母から与えられたはずの自由な
未来は思い描いたものとは
程遠く、明るくはなかった。
3人がそれぞれに抱える闇は切なくて、
こどもたちを思えば、
母親のしたことは正しかったのか否か
わからなくなる。

それでも彼らの中にあったのは
紛れもない家族という絆で
お互いがお互いを想い、
愛があったということ。
どんなことがあっても
母親は母親で、こどもはこども。
そして、与えられた愛情は
必ずその子供たちも
心の奥底で形となっているということ。

親なんてものも、
ただのひとりの人間で
本当に正しいことなんてわからない。
弱いし、迷いながらも
間違えることだってある。
彼女のように、
結局は傲慢な事となることだって
あるのかもしれない。
でも愛するべきものを守るためなら
何にだってなれる。

子は親をうつす鏡。
子どもが誇れる親でありたい。
YUMiC

YUMiC