matsushi

燃ゆる女の肖像のmatsushiのレビュー・感想・評価

燃ゆる女の肖像(2019年製作の映画)
4.5
2020/12/4

芸術的構図、完璧な"音"の使用、テーマ性、溺れるほどの余韻。
全てが美しく、「映画を鑑賞している」という行為自体を忘れてた。この体験は初めてでした。

精巧な色彩調和に加え、どのカットを切り取っても絵画のような美しさを持つ構図。「ペルソナ/仮面」で生まれた、顔半分をもう一つの対象の顔で半分隠すクローズアップのカットは特に胸打たれた。あのカットにこの物語の"始まり"の全てが表現されていたような気がする。

本作の魅力は構図だけではなく、極限まで選別された"音"の使い方。"音"とは音楽ではなく、自然音のこと。セリフも必要最小限で、とても静かで厳かな印象を受ける本作は、火によって薪が割れる音や波の音などの自然音を強調し、作品特有の淡く儚い繊細な世界観へと誘ってくれる。
劇中歌が2曲くらいしか使われてないんだけど、その一つが「フレンチアルプスで起きたこと」でも使用されていた、ヴィヴァルディの『四季』の『夏』。あの圧倒的なラストシーンのロングテイクで流れるオーケストラの『夏』と、アデル・エネルの息を飲む名演。あのラストシーンは今まで見た映画のラストシーンの中でもトップレベルで最高でした。
もう一曲の、あのコーラスは不気味だけどどこか神的な雰囲のスパイスを作品に付加してくれてた。

LGBT作品として捉えられがちだけど、それだけでは収まらないより繊細な深みがある。
恋愛というより深い友情に近いような。"どうすることもできない必然的な別れの悲しみ"という誰もが経験したことがあるであろう普遍的なテーマ性が本作の根底にある。「恋愛感情」という安易な言葉では表現できない奥深い感情を本作から感じた。

ここまで繊細で精巧な作品はあまり見たことがない…
見た後の余韻は言わずもがなものすごかった…
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