あか

囀る鳥は羽ばたかない The clouds gatherのあかのレビュー・感想・評価

3.0
Omoinotakeが主題歌を担当していると聞き、さらに大好きな「モラトリアム」で、「物語と合致し過ぎてエグい」みたいなコメントを見て、じゃあ観なきゃ!と観賞。

なんというか、まず世界観が独特な印象を受けた。全体的に音も画も空気も淫靡で、本当に雨の繁華街が似合う作品だなと。じっとりと湿度の籠った熱に、降り続く雫、地面に反射して歪んだ光看板、まさに梅雨の街ようでした。その空気をそのまま曲として表現している「モラトリアム」、本当に天才だなと、絶賛されている意味がめちゃくちゃよく分かりました。満足。

物語としては、正直あまり共感は出来なかった。個人的にそこまで、性行為に対する快楽や、人に恋い焦がれる熱い思いに対する気持ち、それらを持ち得ないというのが一番の要因かとは思う。
なので、そこに対する切なさも涙も、想像の範囲内でしかなく、どこか遠い世界のような感覚は常にあった。
そういった「感情」や「性」をとことん突き詰めた制作側の熱い思いは感じられたけど、だからこそその本質を重要視した生き方をしてこなかった身としては、一歩下がった部分で傍観しているような気持ちになり、そんな自分が少し寂しくもなった。

なので、序盤の百目鬼はどこか近しいものを感じ、彼と同じ目線で物語を追っている感覚。
彼が矢代を尊敬し、心惹かれていく経緯や、そうなったら自分は側にいられないのではないかと苦悩する気持ちはよく分かる。
相手の世界における自分の立ち位置が変わることで、相手にとって自分が要らないものになってしまう気がして勝手に恐怖するのは、普遍的な自己防衛本能でもあり、人間が他人と生きていく難しさでもあると思う。

あと映画のみを観た身としては、とても素敵な終わり方だったように思う。
「人を好きになる孤独を知った。俺はもう十分知った。」(うろ覚えですみません)という言葉を、震える百目鬼を見ながら心で呟くのは、とても響いた。
昔孤独を知り、絶望を知った彼が、一つの光ともなり得る百目鬼をみてこの言葉を言うのが良いなと。
自分は知ったからもういいよ、という諦めの気持ち。十分知ったはずだろ?と自分の芽生えた思いに問いかける気持ち。本当に孤独なんだよ、と百目鬼に囁くような優しさ。
色んな思いが切なく響くようで、個人的にはとても響きました。
あか

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