おかだ

性の劇薬のおかだのレビュー・感想・評価

性の劇薬(2020年製作の映画)
3.8
性のジグソウ


「性の劇薬」とかいうとんでもないタイトルと荒唐無稽なあらすじ、そしてこの平均点の低さ。

今や飛ぶ鳥を落とす勢いの令和のヒットメーカー今泉力哉とのコラボ作品「愛なのに」と「猫は逃げた」が立て続けに公開を控える巨匠、城定秀夫が監督した今作には、下衆なエロビデオというレッテルが付き纏う。


城定秀夫監督は100本以上というとんでもない数の作品を手がけてきた職人映画監督であるが、そのほとんどはピンク映画なので、あまり世間の認知度は高くない。と思う。

かくいう私も、2020年に公開された「アルプススタンドのはしの方」で初めてその存在を知った。

高校演劇の戯曲を映画化した同作は、高校野球の試合観戦というワンシチュエーション下でありながら、グラウンドを一切映さないという斬新すぎる制約をものともせずに走り切った青春映画の傑作だった。


そんな大ベテラン監督が、今をときめく映画監督とのコラボ祭りを開催するというのだから少し予習しておきたくなって鑑賞した「性の劇薬」。

あらすじはFilmarksの概要にも詳しいので割愛するが、良い映画だったと思う。

序盤やってることはほぼ「SAW」だが、特に後半、物語の主導権が移ってからの展開の引き込みは凄まじく、モチーフとしての小瓶や花びらといった小道具を活用した語り口も良い。
鏡の使い方やふとした仕草なんかも考え尽くされて撮られているようで、やはりこの人はエロビデオ作家ではなくあくまで映画監督なのだと分かる。

ポルノ描写、特に今作は男性間での濡れ場が多いので正直個人的にも結構辛いけれど、陰部の露出による修正をとことん嫌ったこれも映画的なアングルへの徹底したこだわり等もあり、全て必要なカットとして観ることはできると思う。

性というレンズから死生観を見るというテーマは昔から扱われているが、今作もまさに性という劇薬の服用を経て死の願望が生への渇望へと転換される力強いドラマが見事で、少し心動かされた。


確かに表層は間違いなくR18のポルノ映画であるし、主題がBLなので間違っても万人に勧められるものではないが、しかし平均点2.7は辛いなあ。
病院の地下ってそんなことなってんのかいとか、ちょっと脱力して笑えるところとかも良いと思うんやけど。

しかしなんだかんだで信頼のおける映画監督だと改めて感じられたので、予定通り「愛なのに」と「猫は逃げた」が楽しみです。

今泉力哉監督といえば、「街の上で」の城定イハというキャラクターがその苗字から城定秀夫監督をイジる一連があったけれど、そういうのも思い返すと面白いかもしれないし、別にそうでもないかもしれない。
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