SGR

クイーン&スリムのSGRのレビュー・感想・評価

クイーン&スリム(2019年製作の映画)
4.8
今更ビデオスルーという望まぬ形で日本上陸したので再投稿。(2019年11月の公開時にカナダで鑑賞)本来であれば、まさしく去年の6月のBLMを受けてでも劇場公開するべきだった…!マジで許せない。(『ハリエット』は公開するのにこれは後悔しないパルコの基準がわからない。あと『グランパ・ウォーズ』とかよりはヒットしたと思うけど?)

単にBLMを謳っているだけではなく、スタイリッシュで美しい映像による男女2人の逃避行のロードムービー要素と、2人が逃避行を重ねる過程でのロマンスや変化も楽しめる、映画的醍醐味に溢れた作品。そして『ゲット・アウト』の様に黒人のイメージ消費についても自己批評している作品とも解釈できる傑作!

まず主人公の2人は弁護士の女性と冴えないコストコ店員の男性で、暴力的なイメージとは程遠い存在。それが例によって白人差別主義者の警察に目をつけられて発砲されるところから物語が始まる。正当防衛で警察を誤って殺してしまった2人は逃避行を続けるが、その過程で彼らのファッションはステレオタイプなギャング風黒人のイメージになり、逃げるためにさらなる犯罪も重ねたりする。

彼らスタイリッシュなギャング風のファッションで、ブラックミュージックに合わせて逃避行を続ける様子は開放的で正直カッコいいと思ってしまう。それが映画的な醍醐味だが、実際の2人はそのステレオタイプな黒人のイメージのせいで被害を被ってる。つまり、2人を応援しながらもそのステレオタイプなイメージを消費するという矛盾に陥る構造。

そして劇中でもほんの少し前までごく普通の市民だったBLMの"象徴"になってしまい、そこからさらなる悲劇すらも起こってしまう。。更にラストの結末は、実際にステレオタイプなギャングの黒人によって起こされるという皮肉。

その他にも理解ある黒人の警官や彼らを味方する白人夫婦など、ただただ単純にBLMを謳っているわけではなく、中立性を持って描かれている。

最終的にはストリートカルチャーに組み込まれ、アート化される2人のTシャツはめちゃくちゃかっこいいけど(欲しい!)、そうして彼らがイメージとして消費される限りは同じ様な悲劇は続いていくのではないかという、とても複雑な気持ちになる。そういう意味でまさしく「This is America」に通じるテーマを感じる。

エンドロールで流れるLil Babyの「Catch The Sun」も名曲です。
SGR

SGR