おかだ

アルプススタンドのはしの方のおかだのレビュー・感想・評価

4.4
スクールカースト映画の傑作


めちゃくちゃ良かった、「アルプススタンドのはしの方」。
舞台挨拶付きの回を鑑賞し、パンフレットまで購入するほどの肩の入れっぷりです。


高校演劇の大会で使われた戯曲が商業舞台化し、そして映画化するというかなり異例の経歴を誇っております今作。

そんな作品の映画化にあたって抜擢されたのが、ピンク映画界の大巨匠である城定秀夫さん。
この人の作品は見た事が実はないのですが、各方面からの評価の高さと今作の仕上がりっぷりからするに相当に実力ある方なのでしょう。


あらすじですが、埼玉のとある架空の高校の野球部が甲子園に出場することになったために、全生徒が応援に駆り出され、そんな中で野球に興味のない人や野球を辞めた人など、いわゆる端の方にいるような生徒達の、試合応援を通じたさまざまな心情変化を映し出していくというもの。

なのでこれ、「桐島、部活やめるってよ」とか「ブレックファストクラブ」みたいなスクールカーストを題材の一つとして描いたようなジャンルが近いです。


で、そんな今作最大の特徴は、先述したとおり、オリジナルが戯曲なのであくまで舞台演劇を想定した脚本の映画化であるということ。

これが非常に上手くいっていて、単に舞台を映像化するのではなく、舞台演劇ならではの着想や軸を活かしながらも、的確な映画演出を加えて完全に映画として生まれ変わることに成功させておりました。


舞台演劇ならではのオリジナリティの尊重においては、パンフレットで原作の戯曲も読んだ限り、そもそもかなり原作に忠実に撮られているが、最大のポイントはやはりグラウンドを映さない野球映画であるという変化球的構成をそのまま持ち込んだ点。
タイトル通り、観客席と球場通路のショットのみで紡がれた75分間。

舞台演劇においては当然グラウンドは用意できないので、その制約による実は副作用的要素であるが、今作においては、グラウンドを映すこともできる映画というコンテンツにおいて、その要素をあえて持ち込むことによって、逆説的にグラウンドの選手たちに影響を受ける観客席の生徒達の人間模様というテーマの強調を図ったという訳です。

そして、この設定による映像表現の制約をものともしない小技の数々に、城定監督の力量を見ました。

まずは何といっても、観客席の高低をしっかり映すことによる映像の豊かさ。
これによって、ワンシチュエーションにより生じる視覚的な退屈さをまず乗り越える。
そして、アバンタイトルでのまばらなキャラクター配置の妙。
さらに、先の特性上からほとんど使われないキャラクターのバックショットという構図を、ここぞという場面に、やはりグラウンドを映さない絶妙な画角で持ってくるこの勝負勘。

また、グラウンドを映さないという制約のもとでも試合の状況を観客に伝えるという器用さ。
ここは、基本は主要選手の紹介セリフや観客席のキャラクターによる解説等でやりくりしているが、わけても選手のテーマソングで誰が打席に立ったかを示す音楽演出なんかが映画的で、これもいいなあと思ったり。


それから最後に、ここは監督本人も語っていたが、初めは物理的にバラバラだった主要キャラ四人が、スムーズに横一列に並んだところから迎えるクライマックス。
この辺りはとても苦心したと言っていたが、その甲斐あってかめちゃくちゃ自然な配置となっていた。

映画において、特に今作ではめちゃくちゃ露骨に、登場人物の位置関係とはそのまま心情や関係性を可視化するための重要なパーツであり、そういった点からも、野球場の観客席というワンシチュエーションの中でも目まぐるしく動き回るキャラクターの位置関係がラスト綺麗な横一列に収束してからの畳み掛けにはやられました。


ちょっとかなり、書くことがまとまっていないで余韻と勢いだけのレビューとなりましたが、めちゃくちゃいい映画でした。
おかだ

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