ぺー

映画ドラえもん のび太の新恐竜のぺーのレビュー・感想・評価

4.8
「僕の中で、ドラえもん史上最高傑作。」
1作目の「のび太の恐竜」から40年の時を経て、再び恐竜をテーマに、どんな物語を描くのか?どんな冒険に連れてってくれるのか?そんな期待感で公開前からずっと楽しみにしてました。
昨今の情勢もあり、公開延期の苦難も乗り越えて、満を辞して封が切られたこの作品から感じたのは、紛れもなく「未来そのもの」でした。

「のび太の恐竜へのリスペクト」
物語の起点はいつも通りの夏休みのド日常。同じテーマということもあり(あえてだとは思うけども)、「のび太の恐竜」を思い出させるような展開も随所に見られ、これまでのドラえもんの歴史と、それをずっと見守ってきた人達へのリスペクトも感じつつ、これから始まる大冒険を予感させる最高の始まり方。
また、40周年ならではのサプライズな演出も、本編を邪魔する事なくとても印象深く取り入れられており、感動的でした。
要素として、「のび太の恐竜」を取り入れつつも、物語は全く別の結末へと向かっていきます。
細かな伏線の回収も素晴らしく、ストーリーのテンポ、恐竜のダイナミックな映像、いつものお約束なシーン、どこを切り取ってもワクワクで溢れていました。

「ひみつ道具のチョイスが、素晴らしい。」
今作途中で気付いたのですが、定番の「どこでもドア」や「通り抜けフープ」が出てこないんです。その代わりに出てきた道具は、3Dプリンター、VR、GPS、指紋認証… このような僕たちが今推し進めている科学のその先にありそうな、手の届きそうな未来の道具。
「100年後にドラえもんは、本当にいるのか?」時々考えてしまう疑問にそっと答えるような道具のチョイスに感じ、これがただのSFアニメじゃなくて、僕たちの正真正銘の未来に繋がっている、”Stand by me”な物語なんだと思いました。(深読みかもしれませんが…笑)

「悪がいないドラえもん映画」
ドラえもん映画といえば、あらゆる非日常世界を舞台で出会った仲間とともに、その世界の悪と戦うのが定番。
しかし、今作に悪役はいません。
そこが、「のび太の恐竜」と決定的に違う「新恐竜」のアイデンティティなんだと思います。
「悪を倒す」というゴールは、悪役が登場した時点で作られてしまうゴールであり、このドラえもんという作品の中で、「悪を倒す」という擬似的なゴールは、仲間の大切さを描くことはできても、実はのび太の内面的な成長を描くことは難しいのかもしれないと、ずっと考えていました。
もし、そこがテーマでないなら、作品名の「のび太の」という枕詞はあえて毎回付けなくてもいいのではないかとか…
しかし、本作では、のび太が自分を鏡写しにしたような恐竜を通して、自分の弱さを認識し、自分でゴールを考え、約束し、努力して逆境に立ち向かっていく姿を、文字通り最後の最後まで丁寧に描き切っていました。
個人的な感想ですが、僕自身が感じる僕の弱さと重なり、まるで「一緒に頑張ろうよ。」と声をかけられてるようで勇気をもらいました。

「歴史を変えてはいけない?」
ドラえもんの映画では、よく「歴史を変えてはいけない」という絶対的な前提がトリガーとなって、大切な仲間との別れが描かれます。それに対し、今作はその前提に一石を投じるような大胆な展開が用意されていました。賛否両論のようですが、僕は映画の中でくらい子供達が大切にしてる感情に真正直に行動してもいいんじゃないかと思っています。作中でも、人間は感情を豊かに進化させたのだというような台詞があります。
感情はその時々で揺れ動くモノで、合理的なシステムではありません。記録としてしか残っていない歴史をも「変えたい」と願えるのは、曖昧な感情を持ち合わせている人間だからこその行動なのではないかと思います。もし、僕があの状況になったらキューを合理的に見捨てられるか?僕にはできないです。

「本作最大のテーマは、過去ではなく未来」
想像もできないほどの太古に生命が生まれ、少しずつ進化を遂げて、いま僕たちが人間として繁栄しています。ただ、現状に何か満足をしている空気が社会に充満していて、これが進化の終着点だと思って漠然と生きているような気がします。
本作のエンドロールでも描かれていたように、生命の炎はずっとリレーされてきており、僕たちはその聖火を未来に預ける役割を担っているはずなんです。だから進化を止めていいわけはない。
では、生命が進化し、未来を紡ぐきっかけは何か?
逆上がり一回転から歴史は動き始めると思わせてくれました。

繰り返しになってしまいますが、僕の中では、新恐竜はドラえもん史上最高傑作でした。
ドラえもん映画は、普遍的なテーマを描きつつも、現代の時事的な問題や、新たな見せ方にもチャレンジする、クラシックとモダンが手を繋いだ最高のSF映画だと思っています。
そういう点で、本作「のび太の新恐竜」は、これまでの歴史をリスペクトしつつ、これからの作品に一つの形を提案するような、未来に羽ばたく作品になったのではないかと感じました。
何度も見直したいと思える人生の一本です。
ぺー

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