洋梨

ブラック・レインの洋梨のレビュー・感想・評価

ブラック・レイン(1989年製作の映画)
3.8
この映画を観るのはもう何回目になるのか。封切当時俺は転勤で大阪に住んでおり、道頓堀の古めかしい映画館のロードショウで初めて観た。見終わって映画館を出ると、戎橋を渡り劇中「クラブミヤコ」として使われたキリンプラザを右手に見ながらケイト・キャプショーが浮浪者に金を恵んでやる当時歩道橋だった心斎橋を渡り本作の余韻に浸りながら歩いて帰った。映画の舞台を追体験した印象が強烈だったのか、その後もビデオを借りても観たしDVDも買って繰り返し観た。筋は全部覚えてしまったのにテレビで放送する度に何度も観た。
今回健さんの追悼企画で久々に大スクリーンで本作を上映するというので六本木ヒルズまで早起きして観に行った。ハンス・ジマーの劇伴も劇場の大音量で聞きたかったし。
健さんといえば、寡黙・ストイック・背中で語る、という抑えた存在感の役が多いが、そんな印象も残したまま一寸饒舌で可愛い健さんに出会えるのが本作だ。虚勢は張っているものの、その実失意と自己嫌悪と罪悪感に苛まれたマイケル・ダグラスを諭し、男の誇りと尊厳を取り戻させる大変重要な役。で、最後は往年の健さん主演東映任侠映画「昭和残侠伝」のように二人で殴り込むと。この役が健さんでなかったらここまで何度も観ていたかどうか怪しいところだ。
道頓堀の映画館、キリンプラザ、心斎橋も既にない。松田優作、若山富三郎、安岡力也、そして健さんまでもいなくなった。明らかにひとつの時代が終わり俺も歳をとり多くのものを失った。でもまだ持ちこたえられる(I 'll be holding on)と六本木でうどんを啜りながらしみじみ思うのであった。
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