昼行灯

雁の寺の昼行灯のレビュー・感想・評価

雁の寺(1962年製作の映画)
3.9
クライマックスの墓場での抑制された追い詰められ方から、寺の中で襖に埋め尽くされるかのような追い詰められ方への加速さあっぱれ。その後何事も無かったかのように観光名所となる雁の寺グロい。
墓場のシーンでは、久しぶりに寺の外へ出た若尾文子の開放感を示すかのように、大空を背景にしたショットが展開される。だがそのことは住職を亡くした彼女が生きる術を失ったことも意味していて、それを意味するがごとく、彼女は墓石や小僧によって画面を制されていく。らんらんと目を光らせながら若尾ににじり寄る小僧はさながら池の鯉を狙うとんびのようでもある。
やっと小僧から逃げたと思っても、寺の中では四方に広がる襖のカットが幾度となく押し寄せ、若尾を中心とした物語の進行を阻み、結果として結末はぶつ切り状態で終わる。この襖のラストは、墓場のシーンよりもショット間隔が短く、ショットが変わっても変わっても雁の描かれた襖ばかりが映されるので、時折挟まれている若尾のショットが生き埋めになっているかのような印象さえ感じられる。その後の現代パートはカラーで撮られていて、映像的にもぶつ切りの未来って感じなんだけど、ぐるりと襖を見渡すようなカメラの視線は若尾が血の気も失せながら見渡すそれとほぼ同じで、最後までハラハラさせられる。

夜や雨のシーンが多く、和製フィルム・ノワール的な雰囲気もあるが、ファム・ファタールではなく、小僧が運命を握っているところが面白い。若尾は住職を翻弄している点ではファム・ファタール感もあるけど、小僧の秘密を探ろうと躍起になってるところは男性主人公的でもある。結局小僧と若尾はどうなってしまったんだろう。住職の死のシーンも音だけで表されていて最後まで台詞での説明はなく、絶えず謎がある感じで飽きない映画だった。
あと、川島雄三は3人を画面に同居させる構図が面白い。本作では和室の部屋の境界を人物関係に上手く生かしていたとも思う。もうちょっと雁についての説明があればという感じもある
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