パワードケムラー

シャン・チー/テン・リングスの伝説のパワードケムラーのレビュー・感想・評価

4.0
 『シャザム』でもネタにされていたが、アジア人によるアメコミヒーローというものはなかなか光が当たらない。特にアメリカでは、有色人種という文脈がほぼ黒人を表すように、国そのものが黒人と白人の2種類の人種で描かれることすらある。

 しかし、現実はそうではなく、ヒスパニックの人々もいるし、アジア系でもフィリピンなどの東南アジア出身の人や日中韓などの東アジア出身の人々、さらにはインドなどの南アジア出身の人々......さらには外見的なものではないユダヤ系やラテン系といったものも加わってアメリカの人種はそれこそ虹色のように複雑だ。

 それにもかかわらず、アメリカでは奴隷制度と公民権運動の歴史から人種問題とは白人と黒人の間で起こるもの、移民問題はヒスパニックや中東系の間で起こるものとされ、アジア系は黙っている移民、マジョリティの言うところの「優秀な移民」というレッテルを貼られていた。これは褒め言葉ではない。コロナ禍に伴うアジア系へのヘイトクライムからわかるように、ただ反撃しない連中として見られていただけだったのだ。我々アジア人にはローザ・パークスやキング牧師、マルコムXといった旗手はいない。サム・ウィルソンやティチャラといったヒーローもいない。我々は無防備で孤独なように思われた。

 そこに現れた本作は、アジア人としての誇りとアメリカ人しての開拓者精神を併せ持つヒーローたちがスクリーン上で活躍し、世界に勇気を与えた。伝統的な道着にアメリカンなスニーカーという組み合わせはそれをよく表している。そんなシャン・チーたちが旧来の伝統を受け入れながらも立ち向かい、声を上げる姿に救われた人たちもいるのではないだろうか。

 私はスクリーンにアジア人にとってのブラックパンサー、アジア人にとっての新キャプテン・アメリカの姿を見た。