ルネ・クレール監督作。
パリの下町情緒を叙情的に描き出した詩的レアリスム出発作。パリの街頭で楽譜を売る青年・アルベールは、ルーマニア出身の美女・ポーラと出会い、ひと目惚れする。ある日、ひょんなことから部屋を締め出された彼女が居候することになり…。
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サイレント映画からトーキー映画への移行期ゆえか、台詞がある箇所とジェスチャーで見せる箇所が半々。その中でトーキー映画だからこそ表現できる『歌』に比重を置いた作りなのが面白かった。
人は人生経験と重ねて歌詞に感情移入するが、ストーリーを通過することで観客は自身のことではなくとも歌詞に感情移入してしまう。冒頭とラストが同じ『歌を歌う』というシーン。観客は最初は特に感情を抱かず聴くが、同じ歌をラストでは切なく受け止める事になる。
今でこそ歌詞の力で感情移入させる手法は批判されがちだが、トーキー映画が始まった当初は『映画だから出来ること』だったのだろう。登場人物にアコーディオン演奏者が入ってて時折演奏が映るのも良い。
演出も意欲的で建物の4階→3階→2階→1階と移動させるカメラワークだったり、窓の隙間から人間を撮る様な構図だったり今でこそ凡庸だが興味深い。オチはやはり詩的レアリスムの源流だけあって切ない。