あり

異端の鳥のありのレビュー・感想・評価

異端の鳥(2019年製作の映画)
4.6
2020/10/02
もう一生観ないけれど、観てよかった。
この作品でなくとも良かったけれど、観らねばならなかった。
ずっとずっとしんどかった、痛かった。むかしから、なぜ人が人にあからさまな酷たらしいことができるのか、純粋に心からわからなかった。人間に具備される共感性というのは、倫理観を離れたところにある本能的なものだと思う。共感というものは、それ自体甘やかなものではないし、差し出す手にもなれば自身に刃を向けた凶器でもある。
少年に唯一あたたかかったロシア兵。彼はスターリンに心酔していた。彼は身内を殺されそして誰かの身内を殺す。殺された身体につけられていた名前に必然性はない。人間は枠の中の者を、枠をもってしか人間と見做せないのか。反ユダヤ主義が共産主義であったから少年にパンを分け与えたのか。ふたつのイデオロギーの間には、結局カバーできる人々の数、量的な差異しか存在しないのか。異色の鳥がどうして食い破られねばならないのか。それを感覚的に理解できないと思うのは、わたしがわたしの身体に備わった暴力性を理性でもって掌握している/した気になっている結果に過ぎないのだと思う。
一緒に観た友人は憔悴していた。わたしは劇中泣いていた。
最後のシーンは、救いであると思う。ユダヤ教において名前は、神の言葉であり存在と表裏である。彼は、いまここに、ひとりの名を持つ少年として生きていた。
政治哲学を学ぼうと思う。
あり

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