daisukeooka

マトリックス レザレクションズのdaisukeookaのレビュー・感想・評価

4.5
99年に第1作を初めて観たときの衝撃と感動は忘れられない。そして実写第4作の今回は原点回帰。「マトリックス以前」と「以後」に明確に映像文化史を分けるマイルストーンが、螺旋状に進化して帰ってきた。

99年はまだ「2000年を越えれば…」と無条件に未来への希望を抱けていた。22年経ってネットも進化して良いこともいっぱいあったけど、そう簡単に進化できない人間の業みたいなものもどんどん可視化されてきた。

それが「本質」というやつだ。何が気持ちよくて、何をしたくて、何がしたくなくて、何が好きで、何を目指すのか。そしてそれは本当にそうなのか。更にその上、その先があるんじゃないか。人それぞれに本質は違っていて、人それぞれに世界の捉え方は違っていて、すなわち「この世に生きる人とおなじだけの多岐にわたる世界が同時に存在している」とも言える。

そんな中でどう生きる?
赤のピルを飲むか。青のピルを飲むか。
どの世界で生きる自分を選択するのか。

前3作でこれでもかとフィーチャーされてきたVFXやアクションはもう当然のこと。今回は時代のエッセンスを取り込んで、普段は迷いながら生きている観客を鼓舞する朗々たる人間ドラマに仕上げてきた。

第1作でネオ(キアヌ・リーヴス)は「目覚める人」であり、続編では「目覚めた人」だった。それが今回は「目覚めさせる人」になる。ヒーローは、一人だけではヒーローたり得ない。役割は、一人だけでは果たせない。前3作よりも今回のほうが、ネオを支えるチームの面々の体温が伝わってくるような気がした。何より、ネオをまた戦いに呼び寄せるバッグス(ジェシカ・ヘンウィック)が可愛くてエネルギーに溢れている。再会を果たすトリニティ(キャリー=アン・モス)も、過ぎた年月をまとってなお豊かな魅力を湛えている。

そこに、性別適合手術を受けるなどして変転を味わってきた、ラナ・ウォシャウスキーの人生さえも少なからず反映されていると感じる。物語の佇まいは、アイデアと衝動に満ちた第1作、思索に対峙した第2作、終わらせる務めを果たした第3作を超えて、よりシンプルに、奥深く豊かになった。要は「オトナになった」のだ。

ネオとトリニティが戦いの中で初めて手を握り合う瞬間は「まさにそれが人生で一番大事なものなんだ」ということを胸に打ち込む。そのために人は生きる。それこそが力を生む。VFXやアクションが、そんな人生の本質を増幅する。これが映画の仕事だ。

数々の人たちが、過去作や関連作を持ち出しては薀蓄を披露するだろう。ぶっちゃけそんなの関係ないくらいに物語はシンプルで豊かで力強い。劇中を通じて、歳をとった分ショボクレ感も背負ってしまったネオだけど、彼に背中を押されたような観後感がある。劇場を出てきたら、なんだか姿勢が良くなってて足取りも軽かった。前3作から今作までをあらためてこれからイッキ観したいくらいだ。

自分が生きることはすなわち、他の誰かを生かすこと。そのために選択を繰り返すことが人生だってこと。それがこのサーガのテーマだと受け取った。また続くのかな。
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