SaitoTsuyoshi

地獄の黙示録 ファイナル・カットのSaitoTsuyoshiのレビュー・感想・評価

5.0
上映時間182分。1分足りとも無駄がないと言いたいところだけど、10,920秒間の全てが完璧な映画だった。もはやアートの領域で、生涯ベストが更新されてしまったくらい衝撃の連続。「これはすごい…」と何度心の中で呟いたことか。エンドクレジットまで完膚なきまで叩きのめされた感がある。
『1917』が霞んでしまうほどの次元を超えた没入感を堪能できたのは、言うまでもなく都市部の映画館の巨大スクリーンとIMAXたる所以。まだ観ぬクラシックは数多とあるけれど、これだけは初見が今となったことを幸せに思う。逆に見逃してたらと思うと気が遠くなるほど。多分、死ぬ直前ですら思い出してしまいそうな映画だ。
言いたいことは山ほどある。
まず最初はどうしたってマーロン・ブランドだが、彼の出演作は『ゴッドファーザー』、『ラストタンゴ・イン・パリ』、『波止場』でしか観たことは無いけれど、カーツ大佐のインパクトはたった3枚の新聞記事の写真だけで存在感が半端じゃなかった。とうとう最後まで全貌が出てこなかったけど、逆にそれがカリズマ性を膨張させていた。信じられない俳優だと再認識させられた。その次はロバート・デュバル。彼はコルレオーネ・ファミリーのブレーンのイメージ。しかし、ここでは破天荒でイカれた人物。一挙手一投足が痛快極まりない。キルゴアの「ワーグナーとサーフィン」は永遠のベストシーンのひとつに加わった。最高。
そして映像と音響。これはIMAXでしか鑑賞していないから暴論になってしまうかもしれないけど、ただただ「美しかった」。人物を中心に据えるカメラの構図は、主役だろうがバイプレイヤーだろうが、エキストラだろうが関係なく説得力が尋常じゃなかった。大画面に映し出されるアップの表情や服の質感、そして、ヘリや爆撃機、兵士の戦闘シーンの隊列はもはや芸術的。ナパーム弾を投下して椰子の木のジャングルを掃討するシーンはこれまで味わったことのない快感を覚える。何よりもワーグナーの『ワルキューレ』がすべてだけど。この先何度も観直すであろう興奮の極み。音響もやばい。不穏なアンビエントと不自然なシンセサイザーが焦燥感を煽りまくり、3時間という長尺でも集中力を充分に持続できたのはこのスコアのおかげだと思う。
映像は夕暮れ時の景色がもう脳裏にこびりついてしまった。これまでは『バクダッド・カフェ』が最強だったけど、更新してしまいそう。あの風景を見るためだけにベトナムに行きたい。IMAXの映像処理を敢えて施してないのかなというシーンもあってそこも良かったな。
この先はどうやっても家の小さなテレビで観る羽目になるこの歴史的スペクタクル。はっきり言って『地獄の黙示録』というタイトルも???だし、カーツの王国も喋っている内容も理解し難く、さっぱり意味がわからないけどそんなことはどうでもよくただただ圧倒される。最後の1時間なんてとにかくリアル。ようやく哨戒艇ストリートギャングが目的地に辿り着いたときのウィラード大尉を待っていた静寂の中に広がる地獄の光景は圧巻。あまりに規格外な世界観にグロテスクなものに対しては不感症になり、誰もが受け入れるしかなくなる状態に持っていかれる。もはや現実との区別もつかなくなるほどのインパクト。何度でも言う、これは完璧な映画。誰かと話したくて仕方がない。もう『パラサイト』も『007』も『新聞記者』も観なくていい。オーバーアクトで美化された原発の映画なんてもってのほか。あと1週間しかないこのチャンスを逃して欲しくない。
断言する。生涯ナンバーワンだ。