TakaoOikawa

IDOL-あゝ無情-のTakaoOikawaのレビュー・感想・評価

IDOL-あゝ無情-(2019年製作の映画)
4.7
1週間の出来事を追う中で500時間超もの素材を残せる体制作りをした強み、捨てる勇気を持つ必要性をまざまざと見せつけた1作。

撮りたいものや伝えたいことの方向性を持って臨むのがドキュメンタリーの筋かと思うが、想定されるものが見えない中で、ただの記録に終わらず世に見せられるものをしっかり捉えるにはある意味で自然なアプローチの末かもしれないが、実際にやりきったのは見事。

基本的には前作同様、ストレートにオーディションに臨む面々の姿を追った物を撮れるように動いてたハズだが、それをほぼ捨て、別の部分に価値を見出し舵を切る決断をする肝の座り方に感嘆するばかり。

デスソース無しでパフォーマンスとマラソン中心の割とベーシックな審査、参加者に浴びせられる言葉も例年以上に容赦無しと、かなりピリピリ度が高い様子だけでももちろん胃が痛くなりそうなくらいキツい映像になったろうが、そこを横目にBiSからの参加メンバーへ軸足を持っていく。

これはWACKオーディション物としては2作目となる監督としては、前回持たざる者が変わろうとした姿を通してアイドルそのものの在り方を問い、今回はそこから先で実際何が起きてるかを描くという、対照的な所にポイントを置き、話を一歩進めた物にしている。同じシチュエーションからこうも変化をつけるとは驚き。

また、その場で語られている事を実感させる為、過去の映像も引出しとして持っている、続けて携わる利点も随所に織り交ぜ、言葉の重みを裏付けるのも丁寧な仕事。

そして物語はファン目線では1番見たくないけど1番ハッキリさせときたい所をバイアス無しで、しかも感情を極めて抑えた形で紡がれる。

BiSが先代から看板を引き継いでるという特殊な背景にあるが故に生じるそのグループにふさわしい活動が出来てるのかの問題や、どこがしっくりくる構成なのかといったタレント以外にも共通するグループとして活動する際の難しさなどを詰め込んでいる。先の保証もない中、無為に続けるなら幕引きをするのも辞さないというアイドルを背負った者のプライドすら滲んでいる。

そこで交わされるやりとりに何をどう感じるかは個々によって、グループを追ってきたかなどで別れるが、カメラを背けてはならない場面は生々しく確実におさめている。

気になる所は、情報として脱退の可能性がある状況で臨む現役メンバーがいるという前提条件が当然あるにせよ、どこでこっち側に寄るかを決断したか。

0が1になるかもしれない瞬間はWACKオーディション括りでは既に追った素材(しかも生中継で既に晒されてる部分も少なくない)であるが故、1(というか9)が0になるかもしれない瞬間に立ち会う方が、言い方は悪いが撮れ高はあるだろうというのは想像に難くない。なので、そこにカメラが引き寄せられるのも必然かもしれないが。

この辺りと東京にいるBiSメンバーにいつからカメラを向けるつもりだったのか真相は非常に聞いてみたい。
TakaoOikawa

TakaoOikawa