眠人

アトランティスの眠人のレビュー・感想・評価

アトランティス(2019年製作の映画)
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2025年、ロシアとの戦争を終えた未来のウクライナを描いた作品。2022年のロシアによるウクライナ侵攻以前に製作されており、今考えるとなんとも予言的だ。戦争によってもたらされた消えることのない深い痛みを生々しく描くという点では、作風は違うけれども塚本晋也監督の『野火』とも通底している。

画面構成にはシンメトリーが多用されており、殆どが固定の長回し。劇伴もエンディングテーマもなく、重々しい重機の駆動音が鳴り響き、蛇口からぽつぽつと滴り落ちる水滴のように時々登場人物が言葉を発する静謐な作品だった。終わりの見えない死体回収や地雷処理。死者は自らの死を認識することが出来ずに霧が立ち込める冷え切った荒野を彷徨い、生き残った者はPTSDに苛まれ自死する。終戦協定が結ばれて銃声が鳴り止んでも戦争は終わらない。

主人公が廃墟と化した生家を訪れるシーンは画面が揺れ動く手撮り?が続き、人物の感情の揺れが見事に表現されていた。そして、劇中でセックスシーンが描かれるのだけれど、こんなにも暗くて悲しい冷え切った性描写は映画で体験したことがなかった。様々な意味で尾を引いてしまう一作。
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