たけちゃんまん

悪なき殺人のたけちゃんまんのレビュー・感想・評価

悪なき殺人(2019年製作の映画)
2.2
 見終わった直後にもう一度始めから見直したくなるような精巧な脚本が出色している作品。点と点が鮮やかに繋がっていくので退屈な時間がない。
 人間単位ごとの僅かな欲望の偶然が重なりあって起こるカタルシスには、どこか虚しさが残る。現代社会の憎悪や争乱はボタンの掛け違えの連続で引き起こされてることを暗示しているようだ。
 そうしたニヒリズムを反映するかのような殺風景な雪景色と、BGMや効果音が少ない静寂がこの映画を特徴づける。

『私たちにとって物語の中心は、失踪事件の真相解明ではなく、登場人物たちと、彼らが取ってきた行動を通して彼らがそれぞれどんな夢を抱き、どんな世界に生きているかを描くことにあるのです』
と監督が語るように、殺人サスペンスの側面もありながら主題は「愛」の物語である。
 とは言いつつも伏線回収や辻褄合わせが見事なストーリーを軸足に、登場人物の心情や行動が都合よく働く点は気になった。余りにも愚かな人、余りにも繊細な人、余りにも偶然な事、興醒めしなくもない。
 
 あるものを与えるのが快楽
 ないものを与えるのが愛

原題の『獣たちのみ』は、主要人物を指しているのか、はたまた事件の真相を知っている犬と観客を皮肉って指しているのか。